2016年 09月 21日

【声明】共謀罪法案(「テロ等組織犯罪準備罪」)の国会提案に反対する声明

共謀罪法案(「テロ等組織犯罪準備罪」)の国会提案に反対する声明
-秘密保護法×共謀罪×盗聴は監視社会をもたらす-

1 政府による新法案の国会提出検討とその断念
 報道機関は、政府が、2003、2004、2005年の3回に渡り国会に提出し、日弁連や野党の強い反対で廃案となっていた共謀罪規定を含む法案の修正法案をまとめ、今臨時国会に提案を検討していると報じた。
 新法案では、「組織犯罪集団に係る実行準備行為を伴う犯罪遂行の計画罪」を新設し、その略称を「テロ等組織犯罪準備罪」とする。新法案を2003年の政府原案と比較すると、適用対象を「団体」とされていたものを、「組織的な犯罪集団」とし、団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が死刑若しくは無期若しくは長期4年以上の懲役若しくは禁固の刑が定められている罪等を実行することにある団体と定義するとされる。
 また、犯罪の「遂行を二人以上で計画した者」を処罰することとし、「その計画をした者のいずれかによりその計画にかかる犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の当該犯罪の実行の準備行為が行われたとき」という要件を付すとされる。
 その後、市民が新法案にいち早く反対の声を上げたためか、政府は、2016年9月16日、臨時国会への法案の提案はひとまず断念した。しかし、政府は提案そのものを断念したわけではなく、予断を許さない状況である。

2 なぜ共謀罪は危険なのか
 そもそも犯罪とは、人の生命、身体、財産などの法益が侵害され、被害が発生することだと考えられている。法益の侵害又はその危険性が生じて初めて事後的に国家権力が発動するというシステムが、近代的で自由主義的な刑事司法制度の基本である。
 人は、様々な悪い考えを心に抱き、口にもすることがあるかもしれない。しかし、大多数の人は、自らの良心や倫理感から、これを実行に移すことはなく、犯罪の着手に至らないのである。
 我が国の刑事法体系が、犯罪の処罰を「既遂」を原則とし、必要な場合に限って「未遂」を処罰し、ごく例外的に極めて重大な犯罪に限って、着手以前の「予備」等を処罰しているのは、刑事法が「悪い意思」を処罰するのではなく、法益侵害の現実的危険性がある「行為」を処罰する法益保護主義に基づくものである。
 共謀罪は、刑法の基本原則を否定するものであり、極めて危険である。

3 やはりこれは「共謀罪」だ

 新法案の「計画」は、旧法案の「共謀」の言換えにすぎず、どのような行為を「準備行為」とするかについて、明確な限定も付されていない。そのため、例えば生活費のための預金の引き出しであっても、「(犯罪資金の)準備行為」とされかねない。結局、「計画」(共謀)だけで処罰することは、元の政府案と変わりがない。
 また、旧法案では、適用対象が単に「団体」とされていたが、新法案では、「組織的犯罪集団」とされ、その定義は、「目的が長期4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」とされる。しかし、捜査機関による法律の解釈によっては処罰される対象が拡大する危険性が高い。例えば、現在、高江ではヘリパットの建設に抵抗して、市民が座り込みを続けており、これに対して警察は全国から機動隊を動員して警察権を濫用し、多数の市民を負傷させ、逮捕者も出ている状況であるところ、これらの抗議活動が、組織的な業務妨害行為をする組織的犯罪集団の活動と見なされ、摘発の対象とされる可能性がある。また、原発の再稼働に抗議するような活動についても、同様に、摘発の対象とされる可能性がある。
 政府の修正によって、人権侵害の危険性が除かれたとは、到底評価できない。

4 秘密保護法で導入された共謀罪の危険性
 2013年12月に成立した「特定秘密保護法」にも、共謀や煽動を罰する規定が既に盛り込まれていた。
 私たち秘密保護法対策弁護団は、この秘密保護法に強く反対し、その廃止を求めてきた。特に、秘密保護法に盛り込まれた、共謀や煽動を罰する上記規定の存在は、国にとって不都合な事実を明らかにする内部告発やこれを報ずるジャーナリズムに大きな萎縮効果をもたらし、これにより市民の知る権利を制限し、民主主義の機能不全をもたらすことは明らかである。

5 共謀罪の制定は盗聴の拡大をもたらす
 共謀罪法案が成立すれば、警察当局は、秘密保護法違反の共謀罪を含む共謀罪全体について通信傍受(盗聴)の対象とすることを求めて来るであろう。既に産経新聞は2016年8月31日の「主張」において、「(共謀罪)法案の創設だけでは効力を十分に発揮することはできない。刑事司法改革で導入された司法取引や対象罪種が拡大された通信傍受の対象にも共謀罪を加えるべきだ。テロを防ぐための、あらゆる手立てを検討してほしい。」とまで述べている。
 人と人とが犯罪を遂行する合意をしたかどうかや、その合意の内容が実際に犯罪に向けられたものか、実行を伴わない口先だけのものかどうかの判断は、犯罪の実行が着手されていない段階では、極めて困難である。そして、検挙しようとする捜査機関の恣意的な判断を容れる余地がある。人と人との意思の合致によって成立する共謀罪の捜査は、会話、電話、メールなど人の意思を表明する手段を収集することとなる。そのため、捜査機関の恣意的な検挙が行われたり、日常的に市民のプライバシーに立ち入って監視したりするような捜査がなされるようになる可能性がある。
 秘密保護法違反の共謀罪が、通信傍受(盗聴)の対象とされれば、政府の違法行為や腐敗を暴く内部告発・調査報道は極めて困難となる。

6 秘密保護法は廃止、共謀罪は新設阻止
 秘密保護法と、今般の刑事訴訟法改正に盛り込まれた盗聴の拡大に、さらに共謀罪の新法案が加われば、それらはセットとなって、監視社会をもたらし、市民活動に対する萎縮効果を生じさせ、ひいては、民主主義的な政治プロセスの崩壊を招きかねない。
 政府は、同年9月16日、臨時国会への新法案の提案はひとまず断念したと報道されている。しかし、政府が提案そのものを断念したわけではない。政府は、10年前に成立させられなかった修正案よりも、さらに後退した法案を出してこようとしており、予断を許さない状況である。
 私たち秘密保護法対策弁護団(構成員約400名)は、敢然とこれに立ちふさがり、秘密保護法の廃止を求める同時に、共謀罪法案と盗聴拡大を阻止するため、共謀罪法案の国会提案に強く反対するものである。

2016年9月21日
秘密保護法対策弁護団       
共同代表  海 渡  雄 一
同     中 谷  雄 二
同     南    典 男

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# by himituho | 2016-09-21 23:00 | 弁護団の声明など
2016年 08月 26日

テロ対策を名目とする共謀罪法案に反対する!

テロ対策を名目とする共謀罪法案に反対する!
-国連組織犯罪防止条約批准のためには
共謀罪法制は必要不可欠ではない-

2016年8月26日

海渡 雄一
(弁護士・秘密保護法対策弁護団共同代表)

目次
第1 テロ対策と共謀罪を結びつけるのはまちがい
1 共謀罪法案再上程の動き
2 組織犯罪条約はテロ対策とは無関係
3 国連越境組織犯罪防止条約はテロ対策と無関係である
第2 共謀罪法案とは
1 政府案の内容
2 共謀が処罰されるということの持つ意味
3 共謀罪の基本的な問題
4 秘密保護法にも規定された共謀・教唆・煽動罪
第3 条約起草の経過と基本的事項
1 国連 越境組織犯罪防止条約の起草の経緯
2 本条約の名称とその概要、付属議定書について
3 条約審議における日本政府の対応
4 条約の批准の状態
5 議会・国際人権団体のチェック機能が機能していない
6 国際人権法の原則にも違反しかねない
第4 「共謀罪」法案と越境組織犯罪条約
1 政府案
2 条約の適用範囲と政府案との異同
3 条約5条と政府案
4 政府法案提出時における日弁連の意見
第5 共謀罪法案の審議経過
1 共謀罪法案の審議経緯
2 民主党修正案
3 与党修正案と民主党案の丸のみ騒ぎ
4 民主党と日弁連の方針転換
第6 条約批准のために共謀罪制定以外に手段はないのか
1 日弁連2006年意見
2 国連立法ガイドが締約国に認めている立法裁量の幅
3 各国が批准のために採った立法措置
4 共謀罪を新設する以外にも条約を批准する方法はある
5 アメリカにも共謀罪が処罰されていない州がある
第7 廃案後今日までの共謀罪問題
1 平岡法務大臣の取組み
2 安倍政権となってからの展開
第8 国会提出が予測される法案とその問題点
1 団体の定義(2条)
2 合意の推進を要件としても、曖昧さは解消されない。
3 共謀罪の犯罪成立要件として「越境性(国際性)」を追加する
4 共謀(合意)の対象となる犯罪としての「重大な犯罪」を限定する。
5 共謀行為の限定
6 自首減免の対象
7 逮捕勾留する際に顕示行為の蓋然性が要件化されているか
8 既遂犯との二重処罰の防止規定
9 まとめ
第9 越境性を要件とすることは認められるか
1 条約第34条についての法務省見解
2 34条2項の立案経過
3 警察学論集の見解
4 法務省解釈に明らかに反する「公的記録のための解釈的注」
5 越境性を要件にして立法化した国があった
第10 共謀罪問題の決着の付け方
第11 参考文献
第12 条約と法案を巡る経過
第13 共謀罪法案の変遷
第14 <付録>現行法上テロ行為を未遂に至らない段階で処罰する規定(2012年日弁連意見書より)


第1 テロ対策と共謀罪を結びつけるのはまちがい
1 共謀罪法案再上程の動き
 2015年11月13日の夜、フランスのパリでスポーツスタジアム、コンサートが行われていた劇場、カフェなど、多くの人が集まる場所を次々に襲撃し、銃で殺害するという残酷なテロ事件が発生した。この事件を受けて11月17日から自民党の副総裁・幹事長・国家公安委員長らが、国内テロ対策の一環として、共謀罪を創設する法案の早期提出を示唆した。
 その後、官房長官・副長官や法務大臣から、法案提出を検討はしているが、通常国会への提案については慎重な発言がなされてきた。
 ところが、2016年8月26日、朝日新聞が、次のように報じた。
「安倍政権は、小泉政権が過去3回にわたって国会に提出し、廃案となった「共謀罪」について、適用の対象を絞り、構成要件を加えるなどした新たな法改正案をまとめた。2020年の東京五輪やテロ対策を前面に出す形で、罪名を「テロ等組織犯罪準備罪」に変える。9月に召集される臨時国会での提出を検討している。
 共謀罪は、重大な犯罪を実際に実行に移す前に相談しただけで処罰するもので、小泉政権が03年、04年、05年の計3回、関連法案を国会に提出。捜査当局の拡大解釈で「市民団体や労働組合も処罰対象になる」といった野党や世論からの批判を浴び、いずれも廃案になった。
 今回は、4年後に東京五輪・パラリンピックを控える中、世界で相次ぐテロ対策の一環として位置づけた。参院選で自民党が大勝した政治状況も踏まえ、提出を検討する。
 今回の政府案では、組織的犯罪処罰法を改正し、「組織的犯罪集団に係る実行準備行為を伴う犯罪遂行の計画罪」(テロ等組織犯罪準備罪)を新設する。
 過去の共謀罪法案では、適用対象を単に「団体」としていたが、今回は「組織的犯罪集団」に限定。「目的が4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」と定義した。テロ組織や暴力団、人身取引組織、振り込め詐欺集団などを想定している。
 過去の法案では、犯罪を行うことで合意する「共謀」だけで罪に問われていた。今回は共謀という言葉を使わずに「2人以上で計画」と置き換えたうえで、計画した誰かが、「犯罪の実行のための資金または物品の取得その他の準備行為」を行うことを構成要件に加えた。武器調達のためにパンフレットを集めるなどの行為を想定している。
 共謀罪に対しては、一般の会社の同僚らが居酒屋で「上司を殺してやろう」と意気投合しただけで処罰されるといった批判があった。今回は犯罪の構成要件を厳しくすることで、こうした批判を避ける狙いがある。ただ、「組織的犯罪集団」や「準備行為」などの言葉は定義があいまいで、捜査当局によって解釈が拡大される可能性は残る。
 また、対象になる罪は法定刑が4年以上の懲役・禁錮の罪とし、その数は600を超えるとみられる。道路交通法や公職選挙法にも適用されることになり、対象範囲が広いことも議論を呼びそうだ。
 「テロ等組織犯罪準備罪」の罰則は、死刑や無期、10年を超える罪に適用する場合は5年以下、4年以上10年以下の罪には2年以下の懲役・禁錮とした。(久木良太)」

 この記事に書かれているような形で、法案が再提出されるとすると、そこには次のような問題があると考えられる。
① まず、この法案はもともとの政府案からみれば、組織犯罪集団の関与と、準備行為が要件とされた点で修正されたとしているが、2006/7年に政府与党が検討していた修正案よりもむしろ後退している。
② すなわち、自民党はいわゆる小委員会案では対象犯罪を約140にまで絞り込んでいた。しかし、伝えられる提案では、もともとの政府案と同様の600以上の共謀罪を作ることとしている。
③ また、自民党は2006年6月1日に、当時の細田博之国対委員長が当時の民主党修正案を丸呑みすることを提案した。この民主党修正案では対象犯罪を限定し、組織犯罪集団の関与をより明確化し、また犯罪の予備行為を要件としただけでなく、対象犯罪の越境性(国境を越えて実行される性格)を必要としていた。
④ そもそも、この丸呑み騒ぎの後、当時の民主党と日弁連は、ともに越境組織犯罪条約の批准のためには、重大組織犯罪の未遂以前の段階の処罰を可能とする法制度が整っていればよいと考え、現在のままの法制度でも条約の批准には支障はなく、かりに足りない制度があるとしても、時用役を一部留保することも可能だという意見を述べてきた。
⑤ このような観点から見ると、政府が再提出しようとしている法案には新味はなく、2006/7年段階の自民党提案からも大幅に後退している。
⑥ さらに、組織犯罪条約は経済的な組織犯罪を対象とする条約であり、テロ対策とは無関係で共謀罪法案をテロ対策の名目で提案することは従来の政府の説明とも矛盾している。
よって、このような政府提案を認めることは到底できない。

 共謀罪法案については、国連、日本の国会、政府の間で、過去に複雑な経過があるので、少し長くなるが、子細に検討してみることとする。

2 組織犯罪条約はテロ対策とは無関係
 テロ対策を口実として共謀罪法案を国会に提案することに、次の点から反対する。
①  テロ対策のための法制度は完備しており、新たな対策は必要ないし、単独犯によるテロについては、共謀罪は有効性がない
②  国連越境組織犯罪防止条約は経済目的の組織犯罪を適用対象としており、宗教的・政治的目的のテロ対策は条約の目的となっていない。
③  共謀罪なしに国連越境組織犯罪防止条約を批准することは可能であり、国会の承認は完了しているので、すみやかに共謀罪を制定することなく、条約の批准手続を進めるべきである。

3 国連越境組織犯罪防止条約はテロ対策と無関係である
(1)条約の目的は経済的な組織犯罪の取り締まりに限定されている
 自民党小委員会案と最近の自民党・政府の共謀罪制定に関する議論の第1の根本問題は,正面から「テロ対策」を根拠にしたことである。
 そもそも国連越境組織犯罪防止条約が規制の対象としている「越境組織犯罪」とは国境を越えて活動しているマフィアや麻薬の密輸,人身売買などを繰り返している集団の行う経済犯罪である。このような越境組織犯罪に国際社会が立ち向かうために準備されたのが,同条約である。同条約はテロリズム対策のものではない。
 国連越境組織犯罪防止条約第2条は「組織的犯罪集団」の定義として,「金銭的利益その他の物質的利益」を得ることを目的として重大犯罪を行うことを目的とした団体であるとされ,立法ガイドにおいても政治的,宗教的なテロリズムを除外することが明記されている(パラグラフ59)。テロリズムは,組織犯罪ではないということが国連条約における重大な前提となっているのである。

(2)日本政府は国連のテロ対策条約を実施している
 国連は,テロ対策のための条約も多数策定している。ハイジャック防止のためのハーグ条約(1970年),核物質防護条約(1980年),シージャック防止条約(1988年),プラスチック爆弾探知条約(1991年)などがそれである。しかし,国連越境組織犯罪防止条約とテロ関係の条約は国連の中での管轄自体がはっきりと分けられている。
 国連のテロ資金供与防止条約は平成14年に批准され、国内法としてテロ資金提供処罰法が制定された。この法律は2014年に改正され、テロリストが武器を購入するために資金を集めたり、テロリストを援助する目的で資金を提供したりする行為を処罰対象としていたが、テロ行為を容易にする目的で「土地、建物、物品、役務」を提供した場合も処罰の対象とされている。処罰対象者の範囲も、テロリストに直接利益を提供する協力者だけでなく、テロリストを間接的に支援する協力者にまで拡大されている。

第2 共謀罪法案とは
1 政府案の内容
 共謀罪法案は、2000年11月15日に第55回国連総会で決議された「国際的な組織犯罪の防止に関する条約(別名「国連越境組織犯罪防止条約」、「TOC条約」、「パレルモ条約」。以下「国連越境組織犯罪防止条約」と言う。)の中で、「条約締結国は立法化すべき」とされた犯罪である。
 国連越境組織犯罪防止条約自体は、2003年5月に国会で承認され、条約批准のために共謀罪を国内法制化すべきか否かをめぐって、長い論争が繰り広げられてきた。共謀罪は我が国の刑法体系に反するものであり、内心の自由と紙一重の人と人との意思の合致そのものを犯罪化している。処罰範囲の著しい拡大をもたらし、刑罰構成要件がもっている市民にとってどこまでの行為が許されているかという保障機能を害するものである。
 まず最初に国会に提案されていた政府案に沿ってその内容を説明する。
 この政府案は、簡単に言えば、約600種類もの犯罪について、実行を「合意」した段階で処罰するというもので、「合意」を犯罪とするということですから、その「合意」が実際に「実行」に移される必要はない。例えば、誰かが友だちに、「あいつムカつくから殴っちゃおうぜ」と言い、その友だちが「うんわかった」と答えると、それだけで罪を犯したことになるわけである。

 政府案の定める共謀罪の成立要件は次のとおりである。
①長期(刑期の上限)4年以上の刑を定める犯罪について(合計で約600)
②団体の活動として、対象となる犯罪行為を実行するための組織により行われるもの
③処罰対象は、遂行を共謀(合意)した者
④刑期は、原則懲役2年以下。死刑・無期・長期10年以上の処罰が科せられた犯罪の共謀は懲役5年以下
⑤犯罪の実行着手前に自首したときは、刑は減免される

2 共謀が処罰されるということの持つ意味
 人が犯罪の遂行を思いついてから、実際に結果が発生するまでには、次のような段階がある。
 1) 共謀=犯罪の合意
 2) 予備=具体的な準備
 3) 未遂=犯罪の実行の着手
 4) 既遂=犯罪の結果の発生
 これまで、殺人罪や強盗罪、爆弾関係の犯罪など、ごく限られた重大犯罪に限定されて、「予備罪」とが適用されていた。予備罪とは、上に示したように、具体的な準備に着手したことをもって成立する。例えば、殺人を目的とした武器の購入などがこれにあたる。一方、これまでも「共謀」を罪に問うている場合がある。それが「共謀共同正犯」である。「共謀罪が新設される」というと、少し法律を知っている人は、たいてい「それって、いまでも判例で認められている『共謀共同正犯』を法律に明記するだけでしょう」と答える。弁護士の中にも誤解している人が大勢いる。しかし、それはまったく違うのである。「共謀共同正犯」では、処罰のためには少なくとも犯罪の実行が着手されていることが必要である。犯罪が現実のものとなっているときに、その責任を問える共犯者の範囲が問題となって、共謀に荷担しただけの者も責任を問えるというのが「共謀共同正犯理論」なのである。これらと共謀罪の大きな違いは、準備も含めた実行行為が着手されていなくても、その合意だけで罪が成立するという点である。犯罪の「合意」とは、2人以上の者が犯罪を行うことを意思一致することであり、それ以上の、例えば誰かに電話をかける、凶器を買うといった犯罪の準備行為(合意を促進する行為)に取りかかることすらも処罰の要件となっていません。つまり「予備罪」よりも前の段階、そして実行を伴わない「共謀」も罪に問おうというものなのである。
 ちなみに、アメリカの共謀罪では、少なくとも準備行為が開始された事実が必要とされている。また、ほかの多くの国々でも、犯罪の「準備行為」「合意を促進する行為」が要件とされている。つまり世界的には、これらの要件が最低限不可欠であると考えられているわけで、法務省の提案は世界の中で突出していたと言える。
 与党修正案では「犯罪の実行に必要な準備行為その他の行為」が必要とされているが、予備罪よりはかなり広い範囲の行為が入ることになるだろう。たとえば、殺人のためにナイフを買うことが予備行為だとすると「犯罪の実行に必要な準備行為その他の行為」には、ナイフを買うためのお金を預金口座から引き下ろす行為なども入るだろう。
 本稿においては、条約締結のために共謀罪を国内法制化することが絶対に必要なのか、また仮に法制化するとして、適用範囲を限定して、弊害を最小限のものとするため、どのようなことが可能か、あるいは困難かを考えてみることとする。

3 共謀罪の基本的な問題
 伝統的に,犯罪とは,人の生命や身体や財産などの法益が侵害され,被害が発生することと考えられてきた。そして法益の侵害又はその危険性が生じて初めて,事後的に国家権力が発動するというシステムが近代的で自由主義的な刑事司法制度の基本である。人は,様々な悪い考えを心に抱き,口にもすることがあるかもしれない。しかし,大多数の人は,自らの良心や倫理感から,これを実行に移すことはなく,犯罪の着手に至らない。さらに,着手の後にも,自らの意思でこれを中止し,未遂に終わることもある。現在の我が国の刑事法体系が,犯罪の処罰を「既遂」を原則とし,必要な場合に限って「未遂」を処罰し,ごく例外的に極めて重大な犯罪に限って,着手以前の「予備」を処罰するのは,このためなのである。しかも,我が国の刑事法体系では,実行に着手した犯罪であっても,自らの意思で中止すれば,中止未遂として刑を減免してきたし,犯罪実行の着手前に放棄された犯罪の意図は,原則として犯罪とはみなされなかったのである。

4 秘密保護法にも規定された共謀・教唆・煽動罪
 2013年12月に制定された特定秘密保護法に、共謀罪が定められてしまった。公務員が特定秘密を故意に漏えいする行為は懲役10年以下、過失で漏えいする行為は懲役2年以下の刑とされる(23条)。
 公務員以外のジャーナリストや市民活動家も、「秘密を管理するものの管理を害する行為」を手段で取得すれば、懲役10年以下の厳罰が待っている(24条)。
 秘密保護法は独立教唆(本人がその気にならなくてもそそのかすこと)、共謀(二人以上が合意すること)や煽動(集会などで政府の秘密を暴露せよなどと叫ぶこと)も取り締まっているので、特定秘密に触れるところまで行かなくても、嫌疑をかけられる危険がある(25条)。
 このように、秘密保護法は、これまで国家公務員法では原則1年以下、自衛隊法でも5年以下とされてきた刑罰を厳罰化し、また処罰される時期を著しく早めている。一言で言えば、この法律は秘密の漏えいを取り締まると言うより、秘密に接近しようとする行為全体をあらかじめ罰しようとしているのである。
 ジャーナリストが特定秘密とされている事項について、手荒な手段を講じてでも取得しようとする行為は、特定取得行為の共謀罪に問われかねないのである。

第3 条約起草の経過と基本的事項
1 国連 越境組織犯罪防止条約の起草の経緯
 1997年12月12日国連総会は1997年4月にパレルモで、フォンダジオネ・ジョバンニ・イ・フランチェスカ・ファルコーネ(1992年にイタリア・マフィアによって暗殺されたファルコーネ予審判事に因んだ財団)によって組織された越境的な組織犯罪防止のための条約起草に関する非公式会合の報告書に注目する(took note)ことを表明した。
 専門家による政府間会議が1998年2月にワルシャワで開催され、条約内容とオプションを犯罪防止・刑事司法委員会に提出した。  
 1998年4月に開催された犯罪防止刑事司法委員会第7回セッションは、ナポリ政治宣言と組織的越境犯罪に反対するグローバル・アクション・プランの実施に関して会期内のワーキンググループを組織した。このセッションの決議に基づいて、「議長の友人」と呼ばれる専門家の非公式グループが結成され、この第1回の会合は1998年7月にローマで開催され、8-9月にブエノスアイレスで開催された第2回の非公式の準備会合において、条約作成のタイムテープルが定められ、2000年末までに条約案を採択することが承認された。第3回の非公式会合は1998年11月にウィーンで開催され、この場で起草特別委員会の第1回会合の議題の整理が行われた。
 国連総会は1998年12月9日、犯罪防止刑事司法委員会と社会経済理事会の勧告を受けて、国際的な組織犯罪防止のための包括的な条約を起草するための開放型の政府間特別委員会の設立を決定した。
 国連総会のもとに置かれた「越境組織犯罪防止条約起草のためのアド・ホック委員会」において、1999年1月から起草作業が継続されてきた。委員会は11回の審議の後に条約案をまとめ、「越境組織犯罪防止条約」は2000年12月に国連総会で採択され、日本政府はパレルモで開催された署名式で、これに署名した。

2 本条約の名称とその概要、付属議定書について
 1) 本条約の名称
 政府仮訳では、この条約を「国際組織犯罪防止条約」と訳しているが、これは、「transnational organized crime」を「国際組織犯罪」と訳したものである。しかし、正確には「国際的」ではなく、「越境的」とすべきである。条約中には「international」と「transnational」の用語が使われており、仮訳ではどちらも「国際(的)」と訳している。しかし、これでは条約正文の意味を取り違える可能性がある。
 以下の考察では、政府訳では、「国際的」と訳されている部分でも、「transnational」の用語が使われている部分は「越境的」と訳した。これに伴って、条約名称も「越境組織犯罪防止条約」とすることとした。

 2) 本条約の概要
 条約本文はマネーロンダリングの対策が中心の条約であるが、この部分については、「組織的犯罪の処罰と犯罪収益の規制に関する法律」(1999年)で既に国内法が制定されているが、この部分も飛躍的に前提犯罪が拡大されている。
 これに組織犯罪集団に係わる組織参加・共謀の規制の規定と司法妨害の規定が国内法化の義務的条項として規定されており、これが今回の政府案の根拠とされている。
 条約本文中には、盗聴を含む新たな捜査方法、泳がせ捜査の典型であるコントロールドデリバリーや刑事免責などの導入の促進、贈収賄など腐敗防止規定なども規定されているが、それらは批准国に受け入れの選択の余地がある任意的条項であり、今回の国内法化の対象からは原則として除外されている。

 3) 3つの議定書
 なお、本条約には「女性・子どもを中心とした人身売買の防止に関する議定書」「移住労働者の密輸防止に関する議定書」「銃器と部品、構成物、弾薬の製造と輸送に関する議定書」の3つの議定書が付加されている。

3 条約審議における日本政府の対応
 条約審議の冒頭に日本政府が提出したペーパーには、共謀罪の新設は日本の法制度の基本原則から見て不可能と日本政府が考えていたことが下記のとおり明確に記されていたことにも留意すべきである。
「5.(前略)このように、すべての重大犯罪の共謀と準備の行為を犯罪化することは我々の法原則と両立しない。さらに、我々の法制度は具体的な犯罪への関与と無関係に、一定の犯罪集団への参加そのものを犯罪化する如何なる規定も持っていない。」
 このような立場に立って、日本政府は「重大犯罪」を「組織的な犯罪集団に関する重大犯罪」とすること、「その者の参加が犯罪の成就に貢献するであろうことを知って、重大犯罪を犯すことを目的とした組織的犯罪集団に参加すること」の犯罪化を提案していた(A/AC.254/5/Add.3)。
 条約に基づいて新たな立法をするにあたっても、それぞれの国における憲法をはじめとする刑法の基本原則に反するものであってはならないことは、言うまでもない。このことは、条約自体でも明らかにされている(条約第34条第1項)。この点を確認することが、共謀罪問題の解けない知恵の輪を解きほぐす鍵である。

4 条約の批准の状態
 2016年2月現在で批准国は186ヶ国に達している。日本は国会での承認は済んでいるが、政府としては国内法化が完了していないとして批准していない。

5 議会・国際人権団体のチェック機能が機能していない
 最近、組織犯罪条約だけでなく、国際機関が刑事立法の提案を行うことが増えている。サミット、OECD、FATF、EU、ヨーロッパ評議会、国連などが舞台となる。
 これらの条約や勧告の立法・立案過程は警察、検察など法執行機関側だけのメンバーで構成されており、有力な国際人権NGOがほとんど参加していない。その結果として、これらの国際条約や勧告などは著しく法執行側の権限を強めるものとなっている。
 現在の国際刑事立法の制定の過程では、起草と討論の過程には各国の法執行機関のメンバーと外交官しか参加しておらず、条約によって人権を規制される市民の代表は誰も参加していない。
 国際(越境)組織犯罪防止条約の制定過程は、検討の素材となった条約案は少数の「議長の友人」によって起草され、そのもととなったオプションは政府間の非公式会合でまとめられたものである。
 私自身も、1999年5月に日弁連のメンバーとしてこの条約の起草のためのアドホックミーティングについて立ち会う機会があった。このときはマネロンのパートの審議であったが、犯罪立証を容易にする方向での意見が目立った。各国からの代表は外交官と法執行機関の代表であり、民主主義的な多元性が欠けている。
 このような経過から、必然的に、これらの国際条約や勧告などは草案の段階から著しく法執行側の権限を強めるものとなっており、これを審議する各国の政府代表も、むしろ政府機関の権限を強める提案を歓迎するものがほとんどで、起草過程で聞かれる意見の多くも、草案を支持する立場での微調整案であり、国内法との乖離があまりに大きいと国内立法が技術的に難しいなどとする意見にすぎなかった。
 各国の立法機関は、ひとたび条約が起草されてしまった後には、その内容を是正する有効な手段を持っていない。条約を批准するかどうか、条約上許容された裁量の幅のなかでよりよい選択をする以外に方法が残されていない。

6 国際人権法の原則にも違反しかねない
 さらに、これらの条約や勧告はこれまで国際的に確立してきた民主主義的な法制度や価値の原則のいくつかに真っ向から対立する部分を持っている。個人のプライバシー権、刑事司法における無罪推定の原則、集会・結社・表現の自由の保障、弁護権、拘禁された者の裁判所に出頭する権利、公正な裁判を受ける権利などとの衝突が指摘できる。だから、国際機関の条約や勧告をもとに国内立法を構想する際には、思考停止に陥ることなく、国際人権保障の原則との両立を図るために知恵を絞るべきである。

第4 「共謀罪」法案と越境組織犯罪条約
1 政府案
 法務大臣は2002年9月、本条約の国内法化のための「共謀罪(共謀だけで実行の着手がなくても可罰的とする)」、「証人買収罪」、「すべての長期4年以上の刑の犯罪の犯罪収益規制の前提犯罪化」、「贈賄罪の国外犯処罰」などの規定の制定を法制審議会に諮問し、数ヶ月の審議の末、2003年の通常国会に法案を提出した。
 政府が当初提案した共謀罪法案は、条約が認めている「合意を推進する行為」を伴うこと、「組織犯罪集団が関与したもの」という限定を取り外し、また、条約がその精神において求めている犯罪の「越境性」も必要でないものとしていた。共謀罪の適用範囲を、国内の一般犯罪であり、組織犯罪集団が関与しないものにまで拡大して、「一般的共謀罪」の新設を提案したものと評価できる。

2 条約の適用範囲と政府案との異同
 条約第3条には、条約の適用される犯罪の範囲として、「性質上越境的なものであり、かつ、組織的な犯罪集団が関与するもの」と明記している。
 「性質上越境的なもの」とは、「二以上の国において行われる場合と一の国において行われるものであるが、その準備、計画、指示又は統制の実質的な部分が他の国において行われる場合、二以上の国において犯罪活動を行う組織的な犯罪集団が関与する場合、一の国において行われるものであるが、他の国に実質的な影響を及ぼす場合」を意味するとされている(条約第3条2項)。
 「組織的な犯罪集団」とは、「三人以上の者から成る組織された集団であって、直接又は間接に金銭的利益その他の物質的利益を得るため、一定の期間継続して存在し、かつ、一又は二以上の重大な犯罪又はこの条約に従って定められる犯罪を行うことを目的として協力して行動するものをいう。」を意味するとされている(条約第1条(a))。
 法案に定める共謀罪の構成要件は、「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀したもの」とされている。しかし、この団体には、条約上に規定されている「金銭的、物質的な利益を得る目的」「重大犯罪や条約に規定された犯罪を行うことを目的として、協力して行動する」ものであるという限定が全く見られない。犯罪を実行するものの「団体性」と「組織性」だけが要求されている。
 さらに、「金銭的、物質的な利益を得る目的」の点も政治・宗教目的のテロ行為などを規制対象から除外する上で重要であるが、政府案では完全に無視されている。これでは、適用範囲は団体性のある共犯事件のすべてに拡大してしまう危険性があるのである。

3 条約5条と政府案
 条約5条は各国に「共謀」か「団体参加罪」のどちらかを制定することを義務づけている。
「(a) 次の一方又は双方の行為(犯罪活動の未遂又は既遂に係る犯罪とは別個の犯罪とする。)
(i) 金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的のために、重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意すること。ただし、国内法により必要とされるときは、そのような合意であって、その参加者の一人による当該合意を促進する行為を伴い又は組織的な犯罪集団が関与するもの
(ii) 組織的な犯罪集団の目的及び一般的な犯罪活動又は犯罪を行う意図を知りながら、次の活動に積極的に参加する個人の行為
a 組織的な犯罪集団の犯罪活動
b 組織的な犯罪集団のその他の活動であって、当該個人が、自己の参加が犯罪の目的の達成に寄与することを知っているもの
(b) 組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪の実行を組織し、指示し、ほう助し、教唆し若しくは援助し又はこれについて相談すること。」
 政府案は、この(a)(i)と(b)を立法化したものと考えられる。

4 政府法案提出時における日弁連の意見
 日弁連は、政府案のもととなった法制審要綱について、2002年の段階にまとめた意見において、
1)条約の批准に反対し、要綱案に示された共謀罪の新設にあくまで反対する。
2)仮に、条約を批准するとしても、条約第5条については留保ないしは解釈宣言を行うべきである。
3)仮に国内法化をするとしても、対象犯罪を組織犯罪集団の関与する、越境的な性質を有する犯罪に限定し、推進行為を要件とするべきである。
 との意見をまとめていた。

第5 共謀罪法案の審議経過
1 共謀罪法案の審議経緯
 ここで、共謀罪法案の審議の経過を振り返っておきたい。共謀罪に関して、政府案の国会審議に入ったのは、2005年7月であった。2005年の郵政解散総選挙で自民党は300議席を得た。2005年の臨時国会では本格的な審議が始まった。この審議の中で、「目配せでも共謀は成立する」などの答弁もあり、徐々にその危険性の認識も広がっていった。

2 民主党修正案
2006年4月28日、衆議院法務委員会において民主党は共謀罪法案の修正案を提出した。民主党修正案の内容を次のとおりであった。
① 政府案が犯罪行為の主体となるものを単に「団体」と規定していたものを、より限定的に考えるという趣旨で「組織的犯罪集団」とした。そして、「組織的犯罪集団」とは、「重大な犯罪を実行することを主たる目的又は活動とする団体」と定義した。
② 共謀罪の犯罪成立要件として「予備行為」や「準備行為」が必要であるとした。条約では、共謀罪の成立のために「合意の内容を推進するための行為(学術的には「顕示行為又はオーバート・アクト」と呼ばれます。)」を要件とすることが認められていたが、我が国の刑事法制においては「予備行為」又は「準備行為」が顕示行為に当たるとして、これを犯罪の成立要件とした。
③ 共謀罪の犯罪成立要件として「越境性(国際性)」を追加した。日弁連の意見に基づく修正であった。
④ 共謀(合意)の対象となる犯罪としての「重大な犯罪」を限定した。政府案では、条約の規定どおり、「重大な犯罪」を「長期4年以上(の懲役又は禁固)」の犯罪としていたが、それでは対象犯罪が我が国では615(当時)に上ったため、「長期5年超」の犯罪に限定することとし、対象犯罪を約300(当時)に止めた。

3 与党修正案と民主党案の丸のみ騒ぎ
 これに対して、与党も、同年5月19日に与党再修正案を提出し、激しい委員会審議が行われた。いつ強行採決が行われてもおかしくない状況となった。この事態に対して、衆議院・河野洋平議長から慎重審議の申入れがあり、同月26日から30日までの間、衆議院法務委員長提案により設置された実務者協議会が実施された。
 そうした中、自民党は、細田博之・国会対策委員長が、6月1日、民主党修正案を丸呑みする提案(細田国対委員長は、この提案を「ウルトラH」と呼んだ。)をした。それまでに国会での質疑や質問主意書に対して政府が述べてきた見解のままでは、いずれ「丸呑み」提案が反故にされる虞があり、それらの政府見解を変えさせる必要があった。「ウルトラH」は、やはり、反故にすることを前提として提案されたものであることが判明し、6月2日、民主党は、与党の「丸呑み」提案を拒絶した。その結果、共謀罪法案は、その通常国会では継続審議扱いとなり、2009年7月の衆議院解散によって最終的に廃案となり今日に至っている。

4 民主党と日弁連の方針転換
 このような経緯を経て、民主党内では共謀罪に対する取扱いについて再検討が行われた。その結果、日弁連は批准のために共謀罪を創設することは必要不可欠ではないという意見をまとめた。民主党もマニフェスト2009に同様の方針が盛り込まれることとなった。そのポイントとなる部分は、次のとおりである。
「条約は「自国の国内法の基本原則に従って必要な措置をとる」ことを求めているにすぎず、また、条約が定める重大犯罪のほとんどについて、わが国では現行法ですでに予備罪、準備罪、幇助犯、共謀共同正犯などの形で共謀を犯罪とする措置がとられています。したがって、共謀罪を導入しなくても国際組織犯罪条約を批准することは可能です。」

第6 条約批准のために共謀罪制定以外に手段はないのか
1 日弁連2006年意見
 日弁連は2006年9月14日に「共謀罪を導入することなく国連組織犯罪防止条約の批准手続を進めることを求める意見書」を採択した。この意見書は「共謀罪」新設法案は、我が国の刑事法体系の基本原則に矛盾し、基本的人権の保障と深刻な対立を引き起こすおそれが高く、また、導入の根拠とされている国連越境組織犯罪防止条約の批准にも、この導入は不可欠とは言えないとするものであった。
 この意見書は、このように考える根拠として
「国連の立法ガイドによっても,我が国の刑事法体系において,合意により成立する重大な犯罪を未遂以前から処罰する規定を有していれば新たな立法はしないという選択肢も許容しているとみることができる。日本政府は,従来は自ら「共謀罪は,日本の国内法原則と両立しない」と主張していたのであるから,その「国内法原則」と矛盾する共謀罪立法を放棄するべきであろう。」
「我が国においては,組織犯罪集団の関与する犯罪行為については,合意により成立する犯罪を未遂前の段階で取り締まることができる処罰規定が規定され整備されているのであり,新たな立法を要することなく,組織犯罪の抑止が十分可能な法制度は既に確立されている。したがって,政府が提案している法案や与党の修正試案で提案されている共謀罪の新設はすべきではない。それでも犯罪防止条約を批准することは可能である」と説明している。
 この意見は、2012年に新たな情報を更新してもう一度採択されているが、その根本的な考え方は変わっていない。

2 国連立法ガイドが締約国に認めている立法裁量の幅
 この条約には、条約の実施は各国の国内法の原則に沿って行えばよいと言う条項がある。34条1項である。ここには、以下のように定められている。
「締約国は、この条約に定める義務の履行を確保するため、自国の国内法の基本原則に従って、必要な措置(立法上及び行政上の措置)をとる。」
 国連が作成した立法ガイド("LEGISLATIVE GUIDES FOR THE IMPLEMENTATION OF THE UNITED NATIONS CONVENTION AGAINST TRANSNATIONAL ORGANIZED CRIME AND THE PROTOCOLS THERETO")には、次のような記載がある。
 まず、36パラグラフでは、「締約国は、組織犯罪条約を実行することに対する特定の立法上及び行政上の措置を実行することが必要である。34条1項に述べられているように、これらの措置は締約国の国内の法律の基本的原則と合致した方法で行うこととなる。」とされている。
 次に、43パラグラフでは、次のような興味深い言及がある。「各国の国内法の起草者は、単に条約テキストを翻訳したり、正確にことば通りに条約の文言を新しい法律案または法改正案に含めるように試みるより、むしろ条約の意味と精神に集中しなければならない。」
「法的な防御や他の法律の原則を含む、新しい犯罪の創設とその実施は、各締約国に委ねられている。」
「国内法の起草者は、新しい法が彼らの国内の法的な伝統、原則と基本法と一致するよう確実にしなければならない。」とされており、条約の文言をなぞる必要はなく、条約の精神に忠実であれば、かなり広範囲の裁量が認められていることがわかる。また、44パラグラフでは、「条約によって、義務づけられる刑事犯罪は当該国の国内法規定や議定書によって制定される法と関連して適用されることとなるだろう」としている。
 さらに51パラグラフは非常に重要なことを述べている。「関連する法的な概念を持たない国においては、共謀罪又は結社罪という名の制度を導入することなしに、組織犯罪に対して効果的な措置を講ずるという選択肢は許容されている。」
 つまり、共謀罪でも結社罪でもない、効果的な組織犯罪対策という第三のオプションもこの立法ガイドは認めている。このオプションは、まさに共謀罪も結社罪も持たない日本のような法伝統に配慮したものといえる。
 しかし、62パラグラフは.「上記の罪は両方(共謀罪と参加罪)とも、犯罪の未遂もしくは犯罪の既遂とは別のものである。」とされており、共謀罪における合意、参加罪における参加がいずれも、未遂に至る前に処罰可能でなければならないことを求めていると理解されているのである。したがって、我が国の法制度の中で重大犯罪について未遂以前に犯罪が可罰的とされ、犯罪を未然に防止するための諸規定がどのように整備されているかを検討することが必要である。

3 各国が批准のために採った立法措置
 アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどの主要国はどこもこの条項に基づいてあらたな立法を行うことなく、この条約を批准しようとしていると説明されてきた。それぞれの国に存在する組織犯罪対策立法で十分であると判断しているためである。しかし、それぞれの国の制度と条約の文言については明確な対応関係は明確でない。アメリカ、イギリスは共謀罪、フランス、ドイツは結社参加罪と説明されてきた。しかし、最近の説明ではフランスでは、共謀罪が選択されたと外務省は述べている。
 フランスの国連条約(国際犯罪組織防止条約)の批准は2002年、そのあとこれに「合わせる」ための国内法整備は2004年になされているようである。「犯されていない罪」に対して「コンピラシー」だけで処罰されることになった犯罪が1種類加えられた(2004年3月9日の法律で刑法に加えられた条項)。「暗殺と毒殺をするよう、誰かに何か報酬や贈り物をあげるか、あげると約束した者は、その犯罪が行われなくても10年の禁固刑と15万の罰金を受ける。犯罪が実行・未遂された場合はこの条項ではなくて、共犯罪として罰せられる」という規定がそれであるという。
 世界各国の国内法の整備状況について,国会で度々質問がなされてきたが,政府は「分からない」としてほとんど説明がされなかった。この点について,次のような事実が明らかになった。国連越境組織犯罪防止条約の批准のために新たな共謀罪立法を行ったことが確認された国は,ノルウェーとブルガリアなどごくわずかにすぎない。
 アメリカ合衆国は,州法では極めて限定された共謀罪しか定めていない場合があることを国務省の大統領あて批准提案書の中で指摘した上で,国連越境組織犯罪防止条約について州での立法の必要がないようにするため,留保を行った上で同条約を批准した。すなわち,アラスカ,オハイオ,バーモントなどの州レベルでは広範な共謀罪処罰は実現していないことを外務省も認めている。アメリカの批准について,政府はこれまでの答弁において,この留保の事実を知りながら,そのことについて全く説明せず,他方で,同条約第5条についての留保は不可能であると逆の説明を行ってきたのである。
 アメリカ合衆国が国連越境組織犯罪防止条約第5条について部分的であるとはいえ,明確な留保をしていることは極めて重大である。このような例に倣えば,我が国も現行法で足りない部分について部分的に同条約第5条を留保することで,現行法を変えることなく同条約を批准する道があることを示しているからである。
 また,国連に正式に報告されているだけで,組織犯罪の関与する重大犯罪のすべてについて共謀罪の対象としていないことを認めている国が5か国,具体的にはブラジル,モロッコ,エルサルバドル,アンゴラ,メキシコの5か国存在することが明らかになっている。さらに,セントクリストファー・ネーヴィスという中米の島国では,越境性を要件とした共謀罪を制定し,留保なしで国連越境組織犯罪防止条約を批准していることも分かった。
 このように,我が国のような広範な共謀罪立法を行った国はほとんどなく,その立法の必要性に関しては根本的な疑問が提起されている。

4 共謀罪を新設する以外にも条約を批准する方法はある
 条約5条は締約国に組織犯罪対策のために「共謀罪又は参加罪」の立法措置を求めている。我が国にも、数々の組織犯罪立法・措置が存在している。まず、共謀罪が13、陰謀罪が8、予備罪が31、準備罪が6あり、57の主要重大犯罪について、未遂よりも前に処罰できることとなっている。この中で、凶器準備集合罪はかなり広範な暴力犯罪の準備段階を処罰できる法律である。最近立法された「特殊解錠用具の所持の禁止に関する法律」は窃盗などの未遂以前の準備段階の行為を犯罪化したものである。強い毒性を有する物質によるテロ防止のための広範な準備行為を処罰するため、「サリン等による人身被害の防止に関する法律」が1995年に制定された。軽犯罪法の1条29号は他人の身体に対して害を加えることを共謀したものの誰かがその共謀に係る行為の予備行為をした場合における共謀者を処罰できるとしている。この罰則には拘留か科料で罰金すら定められていない。
 このような既存の犯罪規定の整備によって、組織犯罪集団に関連した主要犯罪については既に未遂以前の予備段階から処罰できる体制がほぼ整っているといえる。共謀罪の国であるアメリカでは銃の所持が合法であることが重要である。アメリカでは人が自宅に適法に銃を所持することが広範に可能であるが、我が国では銃規制が徹底されており、このことは組織犯罪の未然防止のための措置として特筆すべき効果を発揮している。
 「組織的犯罪処罰法」によって、組織的な団体の活動としての犯罪について重罰化が図られている。1991年に制定された「暴力団員による不当な行為の防止に関する法律」においては、暴力団の組織加入を強制することなどを犯罪化している。これらは、条約5条のもうひとつのオプションである組織犯罪集団への参加の犯罪化に近い行為を捉えて犯罪化していると評価できる。全国で制定されている暴力排除条例は暴力団の構成員との商業取引全体を非合法化し、その活動を封じ込めようとしたものである。2002年には具体的な事件との関連性がなくても、テロ目的の団体への資金の供与そのものを犯罪化する「公衆等脅迫目的の犯罪行為の資金の提供等の処罰に関する法律」がなされた。これらの中には、人権侵害の危険性を根拠に批判が強かった法制度も含まれているが、具体的な未遂に至る前の段階の行為類型への処罰の一環といえる。このように、日本には、その国内の状況に即した広範な組織犯罪立法・対策が存在している。それらは、決して他の先進諸国にもひけを取らないものと言える。条約5条の求める立法措置は実行されているとして、共謀罪なしで条約は批准することは、多くの国々が選択した賢明なやり方であり、日本もこのような方法での批准が可能であると考えられる。

5 アメリカにも共謀罪が処罰されていない州がある
 この法案の提案の根拠として政府はアメリカでは、このような共謀罪が適用されていると説明してきた。しかし、2007年夏以降、日弁連国際室の調査により、アラスカ州、オハイオ州及びバーモント州において、長期4年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪のうち、州法上共謀罪の対象となっていない犯罪が存在することが明らかになり、このことは外務省も認めている。 
 このように、連邦刑法が適用されない州内で行われた条約上犯罪とすべき行為について州刑法では共謀罪とされていない部分があることを外務省も認めたのである。アメリカにおいては州はひとつの国家と観念されており、各州がそれぞれの刑法体系を有している。通常犯罪のほとんどは州犯罪であり、州を超えた犯罪、国境を超えたいわゆる越境的犯罪だけが連邦刑法の対象となっている。したがって、すくなくとも、これら3州においては、ほとんどの犯罪について共謀罪の対象から外されていると言わなければならない。アメリカでも、このような極端な共謀罪を規定していない州があるということは前記のような方針の正当性を裏打ちする重要な事実である。

第7 廃案後今日までの共謀罪問題
1 平岡法務大臣の取組み
 2009年9月、民主党政権が誕生した。民主党政権では法務大臣はめまぐるしく交替が続いた。千葉法務大臣、江田法務大臣らの任期では、共謀罪について動きはなかった。
 2011年9月2日、平岡秀夫氏が法務大臣に就任した。平岡大臣は、11月7日法務省の関係部局に対して、また外務省の関係部局に対しては、法務省刑事局を通じて、共謀罪に関する状況調査(条約交渉の経緯、条約締結に向けての各国の対応、「条約の留保」の可能性等)と、共謀罪法案に関する立法方針の検討を指示した。平岡氏の説明によると、立法方針案として指示した内容は、次の通りであったとされる。
「「長期4年以上の懲役又は禁固の刑が定められている罪のうち、TOC条約の目的・趣旨に基づいて防止すべき罪に対して、既に当該罪について陰謀罪・共謀罪・予備罪・準備罪があるものを除き、予備罪・準備罪を創設する」ことには、どのような問題があるか。(国連への通報に示されているサウジアラビア、パナマのケースは、これと類似のケースのように思われる。)」
 しかし、このような方向は、平岡大臣の辞任と民主党政権の崩壊によって実現しなかった 。

2 安倍政権となってからの展開
 2012年12月安倍政権が発足した。共謀罪の新設を求める日米両国の捜査当局の強い意思は一貫しており、自民党は野党時代も共謀罪の制定と条約の早期批准を合わせて求めてきた。FATFも、条約の批准を強く求めており、条約批准に関する公式の意見表明が続いている。
 2013年末に秘密保護法が成立した直後に、今年の通常国会においても、再度条約の批准と合わせて共謀罪の制定が求める動きが浮上した。マスコミや市民の強い反発によって、このような動きは見えなくなっている。しかし、秋の臨時国会以降にこの問題が再度浮上すると考え、日弁連ではワーキンググルーブを改組し、対策本部をつくり、全国の単位会にも対策を急ぐように依頼してきた。

第8 次臨時国会提出が予測される法案とその問題点
 現時点では、法案は公表されていない。朝日新聞の記事は、政府が一部の与党議員に配布した資料に基づいて書かれたものと推測される。法案の全体像には不明な部分も残されているが、この資料をもとにこれを分析している。

1 団体の定義(2条)
 まず、団体と組織についてである。
 政府案は犯罪行為の主体となる者は「団体」に属していることを要件としていた。与党修正案では、組織的な犯罪集団の活動とは、「組織的犯罪集団(団体のうち,その結合関係の基礎としての共同の目的が死刑若しくは無期若しくは長期5(4の誤記か)年以上の懲役若しくは禁固の刑が定められている罪(別表第三に掲げるものを除く)又は別表第一(第一号を除く)に掲げる罪を実行することにある団体をいう。)の意思決定に基づく行為であって,その効果又はこれによる利益が当該組織的犯罪集団に帰属するもの」とされている。今回の法案はこれを踏襲してくるものと推測される。
 民主党修正案では、「組織的犯罪集団」とは、「重大な犯罪を実行することを主たる目的又は活動とする団体」と定義している。このような修正は、法律の適用範囲はかなり狭めることができ、意義はあるだろう。しかし、政府は一度は自民党が丸呑みにした民主党案より後退した内容といわざるを得ない。
 そもそも、組織犯罪集団の明確な定義はむつかしく、このような主体の限定が有効に機能するかどうかはわからない。この点について、政府が修正案で、この点を修正してくるかどうかはわからない。

2 合意の推進を要件としても、曖昧さは解消されない。
 条約では、共謀罪の成立のために「合意の内容を推進するための行為(学術的には「顕示行為又はオーバート・アクト」と呼ばれます。)」を要件とすることが認められている。
 与党修正案では、「犯罪の実行に必要な準備行為その他の行為」とされていたが、今回の政府案では、「その計画をした者のいずれかによりその計画にかかる犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の当該犯罪の実行の準備行為が行われたとき」という形で、一応限定された。
 民主党修正案では、我が国の刑事法制においては「予備行為」又は「準備行為」が顕示行為に当たるとして、犯罪の成立要件としている。処罰範囲を限定するため、より、限定された推進行為を要件とするべきである。
 多くの国々では共謀罪が存在していても、犯罪の合意だけで犯罪成立としている例は少なく、何らかの「顕示行為」が必要としている例が多い。合意成立後の打ち合わせや、電話での連絡、犯行手段や逃走手段の準備などの行為が必要とされているのである。アメリカ模範刑法典(5.03条5項)も、「合意の目的を達するための顕示行為が自己または他の合意者によって行われたことの立法と立証」が必要としている。
 条約の5条1項(a)(i)も「国内法により、必要とされるときは、そのような合意であって、その参加者の一人による当該合意を促進する行為を伴いまたは組織的な犯罪集団が関与するもの」という要件を付け加えることを認めていた。
 多くの国々が、組織犯罪集団の関与と合意の推進行為を犯罪要件に付け加えている。合意の成立だけで犯罪の成立を認めた当初の政府案、あまりにも犯罪構成要件が広汎かつ不明確であって、刑法の人権保障機能を破壊しかねず、条約に「悪のり」したものであっただけで、この修正は当然のことをしただけであるといわざるをえない。

3 共謀罪の犯罪成立要件として「越境性(国際性)」を追加する
 越境組織犯罪条約は、もともと「国をまたぐ犯罪(越境性のある、又は国際的な犯罪)」を対象とするものである。
 しかし、政府は、「条約第34条の2で国際性の要件を付することを認めていない」と主張して、法案では「越境性(国際性)」」の要件を外して提案している。しかし、条約の本来の目的を考えれば「越境性(国際性)」を付しても良いと考えられる。どうしても、条約の解釈と異なるとしたら、「条約の留保」等を行うことも選択肢となる。
 この点は、民主党案に含まれており、自民党が丸呑みしたものであるが、今回の政府案では取り上げられていない。しかし、この点は、法律の適用範囲を限定する上でも、重要な修正であり、もし共謀罪法案をどうしても成立させるとすれば、この点も掘り下げて再検討すべきである。この点は、第9で再度検討しておくこととする。

4 共謀(合意)の対象となる犯罪としての「重大な犯罪」を限定する。
 政府案では、条約の規定通り、「重大な犯罪」を「長期4年以上(の懲役又は禁固)」の犯罪としていた。対象犯罪が我が国では615(当時)に上った。
 民主党修正案では、「長期5年超」の犯罪に限定することとし、対象犯罪を約300(当時)に止めた。
 その後検討された小委員会案では、いくつかの案が示されており、明確でないが、最大で約200、最小では約140の犯罪を対象としていた。テロ関係・組織犯罪関係とされる犯罪の中にも、いわゆるテロ犯罪・組織犯罪との結びつきが必然的でない一般犯罪が数多く含まれている。このような対象犯罪の限定が必要であり、政府として必要と考えるのであれば「条約の留保」等を行うことも検討するべきである。

5 共謀行為の限定
 政府案には、共謀行為の限定に関する規定はなかった。与党修正案では、これを「具体的な謀議」を伴う共謀という形で限定しようとした。民主党修正案では、「具体的かつ現実的な合意」を伴う共謀とし、さらに限定しようとした。
 今回の政府案では、「遂行を二人以上で計画した者」とされている。

6 自首減免の対象
 政府案は、自首した場合には、無限定かつ必要的に減免することとした。与党修正案は、密告奨励という批判を受けて、「情状により」任意に減免することができると修正した。民主党案では、さらに、「死刑又は無期の懲役・禁固が定められている罪」に限定した。
 ところが、この点については、新たな政府案では、必要的な減免規定に逆転してしまった。

7 逮捕勾留する際に顕示行為の蓋然性が要件化されているか
 政府案では、そもそも,顕示行為の規定がなく、要件化されていませんでした。与党修正案では、「準備その他の行為が行われたことを疑うに足りる相当な理由があるときに限り逮捕・勾留できる」とされた。民主党案では、「共謀に係る犯罪の予備が行われたことを疑うに足りる相当な理由があるときに限り逮捕・勾留できる」とされている。新たな政府案には、このような規定はない。

8 既遂犯との二重処罰の防止規定
 政府案や、与党修正案には二重処罰の禁止規定はなかった。これに対して、与党修正案と民主党案では、「共謀をした者が,その共謀に係る犯罪を犯したときは,当該罪を定めた規定により処罰され,共謀罪の規定により処罰されないことに留意しなければならない」とされた。ただし,与党修正案では、付則で規定している。
 この点も、二重処罰の禁止規定のない法案に逆戻りしてしまっている。

9 まとめ
 このように、共謀罪について適用範囲を限定していく方法はないわけではない。特に対象犯罪を大幅に減らしたり、組織犯罪集団を明確に定義しその関与を求め、犯罪の越境性を要件とすれば、かなりの限定は可能だ。
 しかし、今回の政府案は条約が予定していた限定条項を盛り込んだだけであり、ほとんど限定とならない。むしろ、与党の修正案の段階からも大幅に逆戻りしている。この間の議論の積み上げも無視した政府案には失望を禁じ得ない。
 根本に立ち返って、共謀罪制定を断念して条約だけを批准する、批准してからどうしても足りないところがあれば対応するのが正しい方向性だ。

第9 越境性を要件とすることは認められるか
1 条約第34条についての法務省見解
 条約第34条2項は、「第5条、第6条、第8条及び第23条の規定に基づいて定められる犯罪については、各締約国の国内法において、第3条1に定める越境的な性質又は組織的な犯罪集団の関与とは関係なく定める。ただし、第5条の規定により組織的犯罪集団の関与が要求される場合はこの限りでない。」と規定している。
 法務省は、34条によると各国の国内法化にあたっては、共謀罪(5条)については越境性、マネーロンダリング(6条)と司法妨害(23条)については、越境性と組織犯罪の関与の点と無関係に立法しなければならないのだ、条約を批准する以上他の選択肢はないという意見を述べている。

2  34条2項の立案経過
 この条項は、条約審議の際の最大の難関であった、条約の適用範囲に関する議論の中で提案されたものである。
 34条はもともと23条ter(23条の3)として審議されていた。9回までの審議に提案されていた、1項は現在の1項と同様、「各国の国内法制度の基本原則と従って」対策をとるというもの、2項は最終的な3項と同様、条約よりもいっそう厳格又は厳重な措置をとることができる。」というもので、現在の2項に相当する規定はなかった。

3 警察学論集の見解
 この点について重要な資料は警察学論集53巻9号に掲載された今井勝典「国連国際組織犯罪条約の実質採択」である。この57-58ページに、「国際性」「組織性」の位置づけの問題として説明されている。
 「(2)「国際性」、「組織性」の位置づけの問題
 審議に当たって、最も各国で困難な調整を強いられることになったのが、条約の適用対象とする犯罪に関して、「国際性」や「組織性」をどのような形で求めるかの問題であったと思われる。
 各国の立場を単純化すると二つの極があり、一方は、この条約の対処する犯罪が「国際組織犯罪」であることを根拠にして、各種処罰規定の整備、逃亡犯罪人引渡し、法律上の相互援助、コントロールド・デリバリー等の捜査協力、技術援助等様々な手段の適用は、すべからく「国際性」と「組織性」とを明確に兼ね備えたものに限定すべきとの考え方であり、G77諸国の支持を集めた。
 そしてもう一方は、条約の実際の適用場面を考えると、そうした厳格な限定的アプローチは望ましくなく、何らかの限定が必要になる場合であっても・もっと緩やかなものにしておくべきであるとするもの(柔軟かつ広範アプローチ(flexible and broad approach))であった。
 双方の立場の対立は、第三読終了時になっても埋まることはなく、幾度とない審議の末、第10回会合になって、ようやく現在の形の成案を得たものである。
 基本的な枠組みとしては、「国際性」、「組織性」を掲げつつも・各種犯罪化・犯罪人引渡し、法律上の相互援助といった実務的に重要な分野で「柔軟かつ広範アプローチ」に基づく特則が採用されるという形の決着となった。」
 とされている。

4 法務省解釈に明らかに反する「公的記録のための解釈的注」
 条約は越境性のある組織犯罪を防止するための条約であり、越境性については3条に、組織犯罪集団に関しては2条に定義がある。条約の審議を通じてこの定義は条約の適用範囲を画することを前提に議論されてきた。越境性と組織犯罪の関与と無関係に共謀罪(組織犯罪の関与は除く)やマネーロンダリング、司法妨害の規定をする義務がある等と言うことは本来は、あり得ない解釈である。
 このことは、条約の「公的記録のための解釈的注(travaux prepatoires)」の第34条2項の解釈をみても裏付けられる。この条項は「条約の適用範囲を変更したものではなく、越境性と組織犯罪の関与が国内法化の本質的な要素ではないことを明確化したものである」とし、この条項は、各国は国内法化の際に越境性と組織犯罪の関与とを要素とする必要はないことを示しているとされている。

5 越境性を要件にして立法化した国があった
 カリブ海諸国の一つであるセントクリストファー・アンド・ネイビーでは、この条約に基づいて共謀罪を制定し、条約を批准したが、その対象は明確に越境性を要件とするものとなっている。条約の定義する越境性を持つ行為に限って共謀罪の対象としている。越境性を要件とした場合、条約の批准ができないという政府の説明は事実の前に崩れ去ったのである。セントクリストファー・ネイビーは条約批准に当たって、条約34条2項の留保もしていない。まさに、同国はこの条約の解釈として、越境性を要件とすることができるという前提に立っていることがわかる。締約国会議で、この立法が問題とされたこともない。このように、私は、越境性を要件とすることは、条約の解釈として認められ、留保ないし解釈宣言も本来必要がないと考える。

第10 共謀罪問題の決着の付け方
 共謀罪問題の本質は、ある条約を批准するために、どこまで国内法を事前に改訂する必要があるのかという点にある。
 日本政府は、人権条約に関しては、明らかに条約に反する国内の制度があっても、平気で批准してきた。これは、ある意味では正しい方向性である。少なくとも、批准しないよりはいい。条約を批准してから、世界の動向も眺めながら、法制度の整備をしても良いのだ。何度も改善を勧告されても、全く対応しないのは考え物だが、そのようなやり方は一般的には認められているのである。
 ところが、越境組織犯罪条約については、日本政府は異常なほど律儀に条約の文言を墨守して、国内法化をしようとした。むしろ、一部の法務警察官僚は、批准を機に過去になかったような処罰範囲の拡大の好機ととらえた節がある。もしかすると、アメリカ政府との間で、アメリカ並みの共謀罪を作るという合意があったのかもしれない。
 しかし、世界各国の状況を見る限り、日本の政府案のような極端な立法をした国はほとんど見つけられない。そもそもこの条約は各国の法体系に沿って国内法化されればよいのである。
 日弁連が、起草途中の越境組織犯罪防止条約の問題に関わって、17年の歳月が流れている。私が日弁連の事務総長、平岡氏が法務大臣となった2011年の秋、私たちは、積年の共謀罪問題の決着を図ろうとした。日弁連が提案し、民主党が採ろうとした方向性こそ、条約の批准をめざすための一番の近道であると考えたからだ。一度は、法務省幹部はこのような解決の方向を探ろうとした形跡がある。しかし、外務省は動かず、平岡大臣の辞任と民主党政権の崩壊によって、このような方向での解決は実現しなかった。
 私は、今年の3月に札幌弁護士会で行われた共謀罪の学習会のためのレジュメの末尾に次のように書いた。
「政府の側の顔ぶれも大幅に変わった。官僚にとって、過去に先輩が敷いたレールを引き直すのは容易なことではないのかもしれない。しかし、ことは日本の国の刑事司法の根幹に触れ、人々の法執行機関への信頼を傷つけるかもしれない問題なのだ。共謀罪の一般化は我が国の法体系にそぐわないと、一度は法務省も考えたのではなかったか。だとすれば、そのような方向で解決策を考え直すべきではないか。
 法務省や外務省の中にも、柔軟で現実的なアプローチを考えておられる方がいるのではないか。共謀罪問題に、法的、政治的な決着を付けるために、今一度知恵を絞り合う必要があるだろう。そして、このような知恵が働かず、政府案と同工異曲の新提案が出てくるとすれば、私たちは、全力を尽くしてこれと闘い、刑事司法を破壊し人権侵害を引き起こす共謀罪の新設を食い止めなければならない。」
 残念ながら、政府側には柔軟で現実的なアプローチをまとめられる人はいなかったようである。今回の政府案は、まさに同工異曲の新提案である。残念なことではあるが、私たちは、全力を尽くしてこれと闘い、刑事司法を破壊し人権侵害を引き起こす共謀罪の新設を食い止めなければならない。

第11 参考文献
○海渡雄一「主権者として情報アクセスの自由を求めるのか、監視の下の安全を選ぶのか」(『国際人権』26号所収)
○山下幸夫・斉藤貴男編『共謀罪法案を批判する』(2016 合同出版 TOC条約に関する論考を筆者も寄せた)
○市川隆太『番犬の流儀』(2015 明石書店)
○平岡秀夫『リベラル日本の創生』(2015年 ほんの木)
○足立昌勝『さらば共謀罪』(2010年 社会評論社)
○樹の花舎編集部『やっぱり危ないぞ 共謀罪』(2007年 樹花舎)
○海渡雄一・保坂展人『共謀罪とは何か』(2006 岩波ブックレット)
○海渡雄一・小倉利丸『危ないぞ 共謀罪』(2006 樹花舎)
○海渡雄一「国境を超えて移動する者を潜在的犯罪者・テロリストとみなす国境管理」『法律時報』78巻4号(2006年)
○古谷修一「国際組織犯罪防止条約と共謀罪の立法化」(警察学論集61巻6号)
○松宮孝明「組織犯罪対策に見る「自由と安全と刑法」-共謀罪立法問題を含む-」刑法雑誌48巻2号
○松宮孝明「実体刑法とその『国際化』――またはグローバリゼーションーに伴う諸問題」『法律時報』75巻2号(2003年)

第12 条約と法案を巡る経過
1997年 12月12日国連総会は1997年4月にパレルモで、フォンダジオネ・ジョバンニ・イ・フランチェスカ・ファルコーネ(1992年にイタリア・マフィアによって暗殺されたファルコーネ予審判事に因んだ財団)によって組織された越境的な組織犯罪防止のための条約起草に関する非公式会合の報告書に注目する(took note)ことを表明した。

1998年 4月に開催された犯罪防止刑事司法委員会第7回セッションは、ナポリ政治宣言と組織的越境犯罪に反対するグローバル・アクション・プランの実施に関して会期内のワーキンググループを組織した。このセッションの決議に基づいて、「議長の友人」と呼ばれる専門家の非公式グループが結成され、この第1回の会合は1998年7月にローマで開催され、8-9月にブエノスアイレスで開催された第2回の非公式の準備会合において、条約作成のタイムテープルが定められ、2000年末までに条約案を採択することが承認された。第3回の非公式会合は1998年11月にウィーンで開催され、この場で起草特別委員会の第1回会合の議題の整理が行われた。

1998年 国連総会は1998年12月9日、犯罪防止刑事司法委員会と社会経済理事会の勧告を受けて、国際的な組織犯罪防止のための包括的な条約を起草するための開放型の政府間特別委員会の設立を決定した。

1999年 国連総会のもとに置かれた「越境組織犯罪防止条約起草のためのアド・ホック委員会」において、1999年1月から起草作業が継続されてきた。

2000年 委員会は11回の審議の後に条約案をまとめ、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(越境組織犯罪防止条約)は2000年12月に国連総会で採択された。日本政府はパレルモで開催された署名式で、これに署名した。

2002年 法務大臣が共謀罪規定の新設を法制審議会に諮問した。

2003年 政府は第156回通常国会に共謀罪法案を提案するも,第157回臨時国会において廃案となった。

2004年 サイバー犯罪に関する条約の国内法化案と合体した形で第159回通常国会に再提出された。

2005年 第162回通常国会において国会審議が開始されるも同年8月の衆議院解散によって廃案となった。
2005年 第44回衆議院議員総選挙において与党が大勝した。
2005年 第163回特別国会に改めて提出されて,本格的に審議入りし,問題点が浮き彫りとなった。

2006年 第164回通常国会において度重なる強行採決の動きがあり,自民党は第二次修正案まで提出した。6月には,自民党が民主党案をいわゆる丸のみする方針を明らかにしたが,一夜にして偽装丸のみが発覚し,合意は成立しなかった。会期末には,与党は第三次修正案を会議録に添付した。
2006年 第165回臨時国会において,法務委員会理事会で与党は共謀罪審議入りを強く求めたが,審議入りしなかった。

2007年 2月に自由民主党の法務部会「条約刑法検討に関する小委員会」は共謀罪をテロ等謀議罪に改称することなどをその内容とする提案を了承した。しかし,同案は自民党内の正式決定に至らず、国会にも提出されず,第166回通常国会,第167回臨時国会において審議はされなかった。
2007年 参議院選挙において、参議院では与野党の勢力が逆転して以降は、共謀罪法案が国会で議論されたことはないまま、2009年7月21日衆院解散によりふたたび廃案となり、今日に至っている。

2009年 民主党は「マニフェスト2009」において、共謀罪法案を成立させることなく国連条約を批准する方針を示し、総選挙で政権交代を実現した。2011年 9月2日、平岡秀夫氏が法務大臣に就任し、11月7日法務省の関係部局に対して、また外務省の関係部局に対しては、法務省刑事局を通じて、共謀罪に関する状況調査(条約交渉の経緯、条約締結に向けての各国の対応、「条約の留保」の可能性等)と、共謀罪法案に関する立法方針の検討を指示した。平岡氏の説明によると、立法方針案として指示した内容は、次の通りであったとされる。「『長期4年以上の懲役又は禁固の刑が定められている罪のうち、TOC条約【越境組織犯罪防止条約】の目的・趣旨に基づいて防止すべき罪に対して、すでに当該罪について陰謀罪・共謀罪・予備罪・準備罪があるものを除き、予備罪・準備罪を創設する』ことには、どのような問題があるか(国連への通報に示されているサウジアラビア、パナマのケースは、これと類似のケースのように思われる)」

2012年 12月総選挙で自民公明連立政権が発足。

2013年12月の特定秘密保護法の成立直後、2015年11月のフランス・テロ事件などの際に、複数の政府高官は共謀罪法案の早期成立を主張したが、政治情勢上の考慮から今日まで法案は国会に提案されていない。

第13 共謀罪法案の変遷
 原案・ 当初政府が提案したもの
 丸飲み案・ 2006年6月2日に与党が丸飲みする予定であった民主党案
 修正案・  2006年6月16日与党が法務委員会議事録に参照掲載した第三次修正案(第一,第二次修正案は除きます)
 小委員会案・ 2007年2月に作成された自民党法務部会小委員会案は対象犯罪と共謀罪の名称をテロ等謀議罪と言い換えた以外は与党修正案と同一である。
 新政府案・ 2016年8月に朝日新聞が報じている政府案として準備されている法案

1 団体の定義(2条)
 原案:共同の目的を有する多数人の継続的結合体  
 丸飲み案:多数人の継続的結合体であって、その構成員の継続的な結合関係の基礎となっている根本の目的が犯罪を実行することにある   
 修正案:結合関係の基礎としての共同の目的を有する多数人の継続的結合体  
 小委員会案:修正案と同一  
 新政府案:修正案と同一

2 共謀罪の定義(6条の2)
(1)越境性
 原案:不要  
 丸飲み案:必要
 「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約第三条2(a)から(d)までのいずれかの場合に係るものに限る」
 ※国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(ここ←)第三条2(a)から(d)とは,
(a)二以上の国において行われる場合
(b)一の国において行われるものであるが、その準備、計画、指示又は統制の実質的な部分が他の国において行われる場合        (c)一の国において行われるものであるが、二以上の国において犯罪活動を行う組織的な犯罪集団が関与する場合        (d)一の国において行われるものであるが、他の国に実質的な影響を及ぼす場合
 である。  
 修正案:不要。ただし,条約の目的を逸脱することのないように留意しなければならないとの付則あり
 小委員会案:修正案と同一  
 新政府案:修正案と同一

(2)共謀する対象となる活動の限定
 原案:団体の活動
 丸飲み案:組織的な犯罪集団の活動(組織的犯罪集団(団体のうち,その構成員の継続的な結合関係の基礎となっている根本の目的が死刑若しくは無期若しくは長期五年を越える懲役若しくは禁固の刑が定められている罪又は別表第一(第一号を除く)に掲げる罪を実行することにある団体をいう。次項において同じ)の意思決定に基づく行為であって,その効果又はこれによる利益が当該組織的犯罪集団に帰属するもの。
 修正案:組織的な犯罪集団の活動(組織的犯罪集団(団体のうち,その結合関係の基礎としての共同の目的が死刑若しくは無期若しくは長期5(4の誤記か)年以上の懲役若しくは禁固の刑が定められている罪(別表第三に掲げるものを除く)又は別表第一(第一号を除く)に掲げる罪を実行することにある団体をいう。)の意思決定に基づく行為であって,その効果又はこれによる利益が当該組織的犯罪集団に帰属するもの
 小委員会案:修正案と同一
 新政府案:修正案と同一

(3)共謀行為の限定
 原案:なし
 丸飲み案:「具体的かつ現実的な合意」を伴う共謀
 修正案:「具体的な謀議」を伴う共謀
 小委員会案:修正案と同一
 新政府案:「遂行を二人以上で計画した者」

(4)顕示行為の有無及び内容
 原案:不要
 丸飲み案:犯罪の予備
 修正案:犯罪の実行に必要な準備行為その他の行為
 小委員会案:修正案と同一
 新政府案:その計画をした者のいずれかによりその計画にかかる犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の当該犯罪の実行の準備行為が行われたとき」

(5)自首減免の対象
 原案:無限定かつ必要的に減免する
 丸飲み案:死刑又は無期の懲役・禁固が定められている罪に限定   修正案:「情状により」任意に減免することができる
 小委員会案:修正案と同一
 新政府案:無限定かつ必要的に減免する

(6)共謀する犯罪の限定
 原案:長期4年以上の懲役・禁固が定められている罪
 丸飲み案:長期5年を超える懲役・禁固が定められている罪
 修正案:長期4年以上の懲役・禁固が定められている罪
     ただし,過失犯,陰謀・共謀罪などを除く。
     なお,長期5年以下の犯罪については,慎重な適用を求める注意規程
 小委員会案:いくつかの案が示されており、明確でないが、最大で約200の犯罪を対象としている。テロ関係・組織犯罪関係とされる犯罪の中にも、いわゆるテロ犯罪・組織犯罪との結びつきが必然的でない一般犯罪が数多く含まれている
 新政府案:原案どおり

(7)逮捕勾留する際に顕示行為の蓋然性が要件化されているか
 原案:そもそも,顕示行為の規定がなく、要件化されていない
 丸飲み案:共謀に係る犯罪の予備が行われたことを疑うに足りる相当な理由があるときに限り逮捕・勾留できる
 修正案:準備その他の行為が行われたことを疑うに足りる相当な理由があるときに限り逮捕・勾留できる
 小委員会案:修正案と同一
 新政府案:原案通り、要件化されていない

(8)既遂犯との二重処罰の防止規定
 原案:なし
 丸飲み案:あり
      共謀をした者が,その共謀に係る犯罪を犯したときは,当該罪を定めた規定により処罰され,共謀罪の規定により処罰されないことに留意しなければならない
 修正案:あり(同上。ただし,付則での規定)
 小委員会案:修正案と同一
 新政府案:原案通り、なし

第14 法律上テロ行為を未遂に至らない段階で処罰する規定(2012年日弁連意見書より)
1 航空機の強取等の処罰に関する法律(昭和45年5月18日法律第68号)第3条
 暴行・脅迫等の方法で人を抵抗不能の状態に陥れて,航行中の航空機を強取する行為の予備行為を処罰する規定となっている。

2 公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律(平成14年6月12日法律第67号)第2条
 情を知って,公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行を容易にする目的で資金を提供する行為を処罰する規定であるが,これは,予備あるいは準備段階の幇助を独立犯として処罰する規定であり(当連合会の2002年4月20日付け「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律(案)」に対する意見書」),未遂に至る前の段階の行為類型を処罰することが可能な規定となっている。

3 サリン等による人身被害の防止に関する法律(平成7年4月21日法律第78号)第6条第4項
 サリン等の製造,輸入,所持,譲り渡し,譲り受け行為の各予備行為を処罰することが可能な規定となっている。

4 放射線を発散させて人の生命等に危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律(平成19年5月11日法律第38号)第3条第3項
 放射性物質を発散させるなどして人の生命等に危険を生じさせる行為の予備行為を処罰する規定となっている。
以上

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# by himituho | 2016-08-26 23:12 | 弁護団メンバー記事
2016年 05月 10日

表現の自由と知る権利の危機をどのようにして克服するのか

表現の自由と知る権利の危機をどのようにして克服するのか
―国連表現の自由特別報告者ケイ氏の暫定所見を契機として―

2016年5月9日

報告者 海渡 雄一
(秘密保護法対策弁護団 共同代表)


内容
はじめに
第1 公式訪問の実現
1 どのような調査がなされたのか
2 特別報告者制度とは何か
3 公式訪問調査が実現するまで
第2 ケイ氏が指摘する日本の表現の自由の危機
第3 メディアの独立性に関する危機
1 放送メディアに対する政府と与党の直接的な介入
2 NHKに対して掛けられている圧力
3 放送法4条を削除し、政府から独立した機関に放送の規制権限を委ねるべきである
4 印刷メディアにおける自主規制の進展
5 メディア自らに連帯して抵抗する責任がある
6 自民党憲法改正草案への危惧
7 メディアの独立性の回復のために、政府、メディアそして市民が取り組むべきこと
第4 特定秘密保護法
1 メデイアの萎縮につながっている秘密保護法
2 秘密指定の要件が限定されていない
3 ジャーナリストと情報ソースの処罰が避けられない
4 不十分な内部告発者の保護
5 監視メカニズムに独立性が欠如している
6 暫定所見に従って、政府は特定秘密保護法を抜本的に改正する作業に着手せよ
第5 歴史に関する教育と報道への干渉
1 植村隆元朝日新聞記者に対する脅迫
2 教科書から慰安婦問題に関する叙述が削除されている
第6 差別とヘイトスピーチについて
1 まず差別行為を規制する法の制定を
2 傾聴すべき人種差別禁止法の先行プラン
第7 デジタルの権利
1 インターネットにおける自由
2 通信傍受法の拡大について
第8 選挙運動に対する制限
第9 公共のデモ行進による表現の自由
1 抗議活動に対する過剰な規制
2 沖縄の状況
第10 表現の自由・特別報告者の画期的な暫定所見を契機に表現の自由を回復しよう
1 国連の条約機関が取り上げてきた日本の表現の自由に関する問題
2 秘密保護法について自由権規約委員会の勧告を一歩進めた暫定所見
3 メディアの独立性を確立するために
プロフィール


はじめに
 表現の自由は民主主義の存立の基礎を作っています。市民がその国で何が起きているのか、正確な事実を知ることができず、また正確な事実の報道と意見表明の自由がないところでは、民主主義政治は成り立ちません。
 日本は、戦前に表現の自由を完全に奪われた社会のもとで、破滅に向かう戦争を選択し、国土を廃墟としました。その反省に立って、日本国民は、日本国憲法を制定し、国際紛争の解決手段として戦争を選ばないことと併せて、すべての基本的人権の中で、表現の自由は生命に対する権利にも匹敵する最重要のものであると考えてきました。
 しかし、安倍政権のもとで、日本の市民社会における表現の自由の前途には黄信号どころか赤信号が点滅をはじめています。
 デビッド・ケイ氏の日本に対する公式訪問と示された所見は、日本の市民社会が表現の自由と知る権利を回復し、民主主義的な政治過程を取り戻すことができるかどうかの瀬戸際に立っていることを示しています。この勧告に示されている意義を正確に把握し、これを実現するための方策を考えてみることとしましょう。

第1 公式訪問の実現
1 どのような調査がなされたのか
 国連人権理事会が任命した「意見及び表現の自由」の調査を担当する国連特別報告者のディビッド・ケイ氏が、4月12日から4月18日まで日本の表現の自由と市民の知る権利に関する公式の調査を行い、4月19日、日本政府などに対する予備的勧告(Preliminary Observation)を公表しました。
 予備的報告は、A4版で8ページに及び、かなり詳細な事実認識と改善すべきポイントが指摘されています。主な訪問と対話の対象は次のとおりとされています。
 (政府機関)外務省、法務省、総務省、参院法務委員会、内閣情報調査室、最高裁判所、警察庁、海上保安庁、内閣サイバーセキュリティセンター、文部科学省
 (メデイア)NHK、民間放送協会、新聞協会、雑誌協会、日本インターネットプロバイダー協会
 (市民社会)さまざまなNGO、ジャーナリスト、弁護士
 この勧告については4月19日の会見時に公表され、日本語にも訳された短いプレスリリースが公表され、国連広報センターのHPで確認できます 。また、今回私と小川隆太郎弁護士が共同で、この暫定所見を仮訳しました 。また、外国特派員協会における報告会見の記録も日本語で公表されています 。
 今回の所見は暫定的なものであり、ケイ氏は、2017年に人権理事会に対して、より完全な報告書を提示することを約束しています。

2 特別報告者制度とは何か
 特別報告者は人権侵害を調査し、「特別手続き」に従って個々のケースや緊急事態に介入するための独立の人権専門家です。特別報告者は、個人の資格で務め、任期は最高6年ですが、報酬は受けません。2015年3月現在、41人のテーマ別、14人の国別の特別手続きの専門家がいます(国連人権理事会のHPより )。この特別報告者による調査と報告、それに基づく勧告は、人権条約機関の活動と並んで、各国の人権政策の向上に資することを目的としています。日本政府は、いつでもこのような調査を受け入れること(standing invitation)を人権理事会の場で約束しています。
 特定秘密保護法の国会審議中に、ピレイ国連事務総長とともに、国連人権理事会に対する表現の自由に関する特別報告者であったフランク・ラリュ氏が市民の知る権利の観点から懸念を表明したことがあります。最近では、原発事故後の健康問題についてアナンダ・グローバー特別報告者が報告したレポートなどが有名です。

3 公式訪問調査が実現するまで
 日弁連は、特定秘密保護法の成立直後から秘密保護法について特別報告者の日本に対する訪問調査を要請してきました。その理由は、フランク・ラリュ氏が法案の国会審議中に秘密保護法について懸念するコメントを表明されたという事実があったからです。
 2015年3月30日には、フランク・ラリュ氏の後任であるデビッド・ケイ氏が、ごく短時間ではありましたが、日本を非公式に訪れ、外務省と日弁連・NGOと懇談の機会を持ち、公式訪問の可能性を探りました。
 2015年7月にデビッド・ケイ特別報告者は日本政府に公式訪問の申し入れを行いました。日本政府は8月に暫定的にこれを受け入れるとし、日程などの調整に入りました。2015年10月21日に12月1-8日に日本を訪問することが公式に承認されました。調査対象は秘密保護法だけでなく、メディアによる取材報道の自由、市民の表現の自由などに関する事項を含むものへと広がりました。
 ところが、11月13日ジュネーブの日本代表部から特別報告者に対して、「関係する部局の担当者とのミーティングがアレンジできない」という理由で、2016年秋まで訪問を延期するよう要請が届けられました。
 ケイ氏は、日本政府に対して予定されていた日程での調査の実現を求めましたが、11月17日日本政府の対応に変化が見られないためキャンセルを受け入れ、このことを11月18日早朝(日本時間)に関係していたNGO関係者にメールで連絡しました。
 アムネスティ・インターナショナルとヒューマンライツ・ナウ、秘密保護法対策弁護団の3団体は連名で、日本政府に対して、表現の自由の国連特別報告者の公式訪問を、2016年の前半中のできる限り早い時期までに実現すべきことを求める声明を公表し、外務省に協議を申し入れました。
 この申し入れを受けて、外務省人権人道課を中心とした日本政府と国連人権高等弁務官事務所との協議によって、いったん中止された公式訪問が、本年4月に実施されることとなりました。
 今回の公式訪問の早期実現のために政府の担当部局と国連機関が行った努力に対して、私たちは深く敬意を表するものです。

第2 ケイ氏が指摘する日本の表現の自由の危機
 それでは、調査の結果出された暫定所見の説明に入りましょう。ケイ氏は、冒頭で日本における表現の自由が重大な危機に瀕していることを明確に指摘しています。
 「報道の独立性は重大な脅威に直面しています」「脆弱な法的保護、新たに採択された『特定秘密保護法』、そして政府による『中立性』と『公平性』への絶え間ない圧力が、高いレベルの自己検閲を生み出しているように見えます」「こうした圧力は意図した効果をもたらします。それはメディア自体が、記者クラブ制度の排他性に依存し、独立の基本原則を擁護するはずの幅広い職業的な組織を欠いているからです」「多くのジャーナリストが、自身の生活を守るために匿名を条件に私との面会に応じてくれましたが、国民的関心事の扱いの微妙な部分を避けなければならない圧力の存在を浮かび上がらせました。彼らの多くが、有力政治家からの間接的な圧力によって、仕事から外され、沈黙を強いられたと訴えています。これほどの強固な民主主義の基盤のある国では、そのような介入には抵抗して介入を防ぐべきです」(離日時のプレスリリース より)

 ここで、ケイ氏の指摘は、政府の介入によって、メディア内部の自主規制、自主検閲が強まっていること、メディアが政府に対する監視役として、積極的に問題を提起していく役割を負っていることが認識されず、連帯の精神にもとづく政府への抵抗が弱いことを厳しく指摘しています。この点の重要性は、最後にもう一度検討します。
 また、勧告は特定秘密保護法と歴史教育と教科書、差別とヘイトスピーチ、選挙運動の規制、インターネット表現、デモにおける警察による規制などにも言及し、具体的な改善点を指摘しています。

第3 メディアの独立性に関する危機
1 放送メディアに対する政府と与党の直接的な介入

 暫定所見は政府からの直接の干渉を受けている放送メディアに関して、次のように述べています。
 「放送倫理・番組向上機構〔BPO〕は放送について自主規制のプログラムを実施しようとします。これらの公式の保護にもかかわらず、私が会ったかなりの数のジャーナリストは、政府からの強い圧力を感じ、経営陣から、その報道と政府の公式の政策の優先順位を整合させるように指示されていました。」
 「放送法第4条は、「公安(公共の安全)及び善良な風俗を害しないこと。」「政治的に公平であること。」「報道は事実をまげないですること。」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。」という基本的な専門的な倫理規範を設定しています。これは(放送に対する)正当な期待です。しかし、誰が、このような広範かつ極めて主観的な概念に適合していると判断できるでしょうか?私は、政府、いかなる政府も、何が公平であるかを決定する立場にあってはならないと思います。これは、公衆による討論の問題であり、日本は、既にBP0という自主規制団体を持っているのです。」
 「政府は、反対の見解を採っています。2月に、総務大臣が表明し、その部下によって確認されたように、放送法第4条に違反したと判断した場合、放送法第174条によって放送事業免許の停止等を命ずることができます。政府高官は、これらの発言は、脅威ではなく、単に法律が述べていることであると主張しました。しかし、私は、第一に、放送法の法的解釈はまだ決定されていないと信じていますし、第二に、この発言は、メディアを制限する脅迫として合理的に認められるものです。」
 「もしこの大臣のコメントだけが存在しているのであれば、私は、その意味を割り引いて考えることができるかもしれません。例えば、政府は、番組内容を理由に、今まで放送免許を中断したことはありません。しかしながら、他の例では、本当の政府の関心は、報道の内容とトーンであることを示唆しています。例えば、2014年11月20日、自民党の首脳が、「選挙時の報道の公平性、中立性、正当性を保証するための要求」と題する手紙を、放送ネットワークに送りました。この手紙では、「中立性・公平性」という名目で、例えば、回数、ゲストスピーカーの時間や選択まで言及しています。自民党は、一週間以内のうちに、テレビ朝日に対して、「報道ステーション」のアベノミクスに対する11月24日の報道を批判し、「公正で中立なプログラム」を要求しています。この手紙は、この番組が放送法第4条第4項の基準を十分に考慮していないと述べています。」


 この自民党による選挙報道に関する要請は公になっていたことですが、テレビ朝日・報道ステーションに対する批判が公式に認められたことには大きな意義があると思います。

 「私はまた、メディア、特に放送ジャーナリストが、メディアとのオフレコ会見で、政府関係者によって行われたコメント(そのコピーが広くジャーナリストの間で回覧されているものですが)によってプレッシャーを感じているという報告を受けています。例えば、2015年2月24日のオフレコ会談で、菅官房長官は、名前を明示しませんでしたが、あるテレビ番組が放送法に準拠していないと批判したと伝えられています。」
 「厳しい質問をすることで評判でよく知られているニュースキャスターやコメンテーター が、政府からの敵対的な雰囲気や批判の影響を恐れて、長期間にわたって保持していたそのポジションを離れました。これは、従業員が企業に数十年もの間とどまる(日本の放送)業界においては驚くべきことです。あるよく知られているコメンテーターである古賀茂明氏は、政府の圧力により、もはやテレビ番組に出演することはないと言われています。」


2 NHKに対して掛けられている圧力
 「私と対話した一部の方々は、NHKに対してかけられている圧力に懸念を表明しました。国会が一つの政党連合によって強く支配されている場合、国会がNHKの理事会のメンバーを任命するという事実だけでなく、国会がNHKの予算を承認するということは、放送局が独立性を欠いているという認識をもたらします。例えば、NHKの籾井会長は、(国際放送において)、「政府が右と言っているときに、私たちが左と言うのは、よくない。」と言っています。この言葉は、後に籾井氏によって取り消されましたが、NHKの役割は、政府の政策を推奨することであると、多くの人に理解されました。NHKの経営幹部は、そのような圧力があることは否定しましたが、番組や報道の選択に関して、そのような圧力があるというふうに広く信じられ、懸念されています。」

3 放送法4条を削除し、政府から独立した機関に放送の規制権限を委ねるべきである
 「これらの懸念を考慮して、私は、政府に対して現在の法的枠組みの見直しを提案し、特に、放送法第4条を廃止し、政府自らをメディア規制活動の外に置くこと勧めます。」

 このように、ケイ氏は高市総務大臣による放送法に基づく電波停止の発言に根拠がなく、そのような形で放送法が用いられるとすれば、それは憲法21条と自由権規約19条に反することを明らかにし、さらに、このような解釈を許すような放送法4条を廃止し、放送の規制の権限を政府から独立した機関に移すように求めたものです。この法的な提言は、今起きているメディアの独立に対する危機を根本から改めるために極めて効果的なものであると思います。

4 印刷メディアにおける自主規制の進展
 ケイ氏は放送以外のメディアに対する政府の干渉と自主規制について、次のように述べています。
 「印刷媒体のマスコミも、同じような問題を経験しています。私は、現場の記者から、政府に批判的な記事を書いた後、その記事の出版のキャンセルや延期、または記者の降格または異動を求められた、という報告を受けています。何人ものジャーナリストが、マスメディアは、福島の災害や、従軍慰安婦などの歴史問題等、政府の批判につながる可能性のあるトピックをカバーすることを避けようとしていると私に言いました。ある記者は、福島原発に関する記事を書いた後、降格され、給料を削減されました。」

5 メディア自らに連帯して抵抗する責任がある
 「メディアは、その脆弱性に対して、かなりの部分の責任があります。もちろん、もし日本のジャーナリストが、職業的でメディア横断的な、そして独立し、互いに連帯できる機関を持っていたなら、政府の影響に対して、容易に抵抗することができたでしょう。しかし、そのようなものはありません。いわゆる、「記者クラブ」システム、プレスクラブは(所属する者の情報への)アクセスに役立ち、フリーランスとオンラインジャーナリズムに不利益をもたらし、(彼らを)除外することに役立つだけです。」
 「メディアの経営者は、政府の高官と緊密な関係を築いています。そこでは、規制する側と規制される側が、東京のレストランで一緒に食事を楽しみます。そして、まだ、主流派のジャーナリストとフリーランスのジャーナリストをともに結集するような幅広い協会 は存在せず、共通の目的のため、連帯し擁護していく可能性も限られています。更に、プレスの評議会として、独立して、ジャーナリズムのすべての領域について自主規制しようというものも存在しません。代わりに、ジャーナリストは、彼らの声を上げ、彼らを保護するための独立した機関を欠いているために、経営者からの報復があるのではないかと恐れ、匿名を条件に私と話さなくてはならないと感じています。」


6 自民党憲法改正草案への危惧
 「これらの懸念の複合体は、しばしば見落とされているのですが、自由民主党が起草したと報道されている憲法改正案は、憲法21条において「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。」という改正を含んでいます。この広範な制限を可能とするただし書きは、自由権規約第19条と矛盾し、表現の自由とは相容れないと思われます。メディアにいる人たちが、この改正は、自分たちに向けられていると信じていることには根拠があります。」

7 メディアの独立性の回復のために、政府、メディアそして市民が取り組むべきこと

 ケイ氏の指摘した改善のためのポイントをまとめると次のようにまとめられるでしょう。
① 放送法4条の削除と放送に対する規制権限を総務省から政府から独立した機関に移すこと
② NHKの人事権が政府に委ねられ、予算についても国会によってコントロールされている実情を変えることです。この点は、もともとNHKの経営委員の人事は国会における慣習として国会における与野党の同意人事とされてきました。安倍政権は、公正な人事のために不可欠な前提であったこの長く続いた不文律を反故にし、自らの個人的な友人を経営委員に任命するという偏頗な人事を強行してきました。この点を元に戻すことも極めて重大な課題の一つです。
③ ジャーナリストが政府に抵抗し、圧力を跳ね返すための連帯と共同のための組織を作ること
④ 自民党改憲草案に基づく表現の自由に対する制約を認めないこと
 この所見の持つ意味については、最後にもう一度検討することとします。

第4 特定秘密保護法
1 メデイアの萎縮につながっている秘密保護法

 こうした環境下で『特定秘密保護法』は、実施の初期段階ながら、重大な社会的関心事のメディア報道を委縮させる効果を生んでいるとケイ氏は述べています。
 「すべての政府は、国家安全保障と公共の安全に不可欠な情報の保護を確保しなければならず、また、情報アクセス権を保証するメカニズムを国民に提供しなければなりません。日本の法律では、情報公開法を含む、国民の知る権利を保護するための仕組みがあります。しかし、特定秘密保護法(「秘密保護法」)は、情報公開から必要以上に情報を保護しており、原子力発電、国家安全保障、防災など、公共の利益の分野において、国民の知る権利を危機的な状況にしています。私の前任の特別報告者は、自由権規約委員会と同様に、秘密保護法の採択プロセスや国民の知る権利に対する制約について懸念を表明しました。私は、次の事項に関して政府高官に問題提起をしたところ、彼らは、寛大に時間をかけて誠実に秘密保護法の必要性を説明してくれましたが、私にはまだ懸念が残っています。」

 このように、今回の所見は政府関係者による時間を掛けた説明と討論に基づいて専門家が作成したものであることがわかる。

2 秘密指定の要件が限定されていない
 「まず第一に、自由権規約委員会の2014年の定期審査でも指摘されていますが、秘密保護法は、私の見解では、秘密指定ができる事実、もしくは、秘密指定をする前提条件について、適切な規定がなされていません。政府の運用基準では、情報を秘密として指定できる4つの特定のカテゴリー(国防、外交、特定有害活動の防止、テロ活動防止)について明らかにしようとしており、私はその努力を評価します。しかし、特定のサブカテゴリーは、過度に広範なままです。私は政府に対して、公開されても日本の国家安全保障を危うくすることがないような秘密が特定秘密に指定される可能性がないよう、継続的な努力と警戒を促します。」


3 ジャーナリストと情報ソースの処罰が避けられない
 「第二に、秘密保護法は、ジャーナリストや情報ソースに、刑事処罰を受けるリスクを課しています。秘密保護法第22条が表現の自由に配慮していますが、その評価は「何もないよりまし。」と言う人もいます。しかし、結局は、法律家ではないジャーナリストに対しては、未だ懸念を持たせる可能性を残しています。当局者は、第22条での「専ら」という用語は、「主に」という意味で解されるべきとしていますが、私は、権限に秘密を公開した場合、政府が第22条をどのように解釈するのかという点については懸念を拭えません。さらに同法は、記者が秘密情報へアクセスを試みた場合、「極めて不当な手段」を採用したとみなされなかった場合には保護されるとしています が、その具体的なところはきちんと定義されないままです。」
 「私は、政府が秘密保護法第25条の過酷な罰則をジャーナリストへ適用することを意図していないと政府高官から聞いて喜んでいましたが、そうであれば秘密保護法は、萎縮効果を排除するためにそのように改正されるべきです。私はまた、ジャーナリストによって意図せざる情報公開が行われた場合、その情報が公共の利益になるとき、かつ、善意で取得されたものであるとき、かつ、合法的な報道目的で取得されたときは、処罰されないということも政府高官から聞いて理解しました。しかしながら、自由権規約委員会の勧告を踏まえると、私は、政府に対して、ジャーナリストであれ公務員であれ、誰でも、国家安全保障に害を与えず公共の利益に資する情報を開示した場合は、処罰されないことを保障する例外条項を明記するよう奨励します。」


4 不十分な内部告発者の保護
 「第三に、不適切な指定がなされた場合に適用できる保護は別として、内部告発者の保護制度が、一般的に弱いように見えます。これは、特に公益通報者保護法と秘密保護法との相互関係において、どのような取り扱いがなされるのかが不確実のままです。しかし、最低限、特定秘密にアクセスを許可された人が開示した場合の処罰規定において、情報公開が公共の利益になり、かつ、日本の国家安全保障を危うくしないと真摯に確信して情報をリークした個人は罰しないという例外規定を含める必要があります。」


5 監視メカニズムに独立性が欠如している
 「第四に、秘密保護法によって設置された監督メカニズムは、独立性が十分でなく、秘密指定が適切かどうかを決定するための情報へのアクセス権も十分に保障されていません。国会の常任委員会 は、行政部門を外から監督する機関(私は、そのメンバーに会うために努力しましたが失敗しました。)ですが、政府は、特定秘密に、国会の常任委員会がアクセスすることを許可するかどうかについて裁量権を持っています。したがって、常任委員会は、ある情報の特定秘密指定が適切かどうかを決定するために十分に具体的な情報を与えられなかったようです。更に、委員会の勧告は、本質的に拘束力がありません。衆議院は、政府に対して説明責任を向上させるように要求しましたが、私としては政府に対して、専門家による独立した監視委員会を設置して、この目標を追求することを奨励します。」


6 暫定所見に従って、政府は特定秘密保護法を抜本的に改正する作業に着手せよ
 ケイ氏による提言をここにまとめておきます。
① 秘密の定義が広範に過ぎ、適切に限定されていないこと
② ジャーナリストに対する保護規定(同法22条)は不十分であり、公益のために秘密を開示したジャーナリストや公務員を処罰の対象から除くこと
③ 特定秘密についても、公益通報した者が刑事罰から保護されるように法を改めること
④ 特定秘密の指定と解除について法が設立した監視のメカニズムが十分に独立性のあるものとなっていないこと、とりわけ国会内の情報監視審査会の勧告に拘束力がないこと

 これらの指摘は市民団体や日弁連が同法の成立前から指摘してきた法の問題点の指摘とも一致するものです。ケイ氏のフルレポートが公表されれば、次の人権理事会におけるUPR審査(普遍的定期審査)では、多くの国々からこの所見の実現を勧告されることとなるでしょう。政府は国連人権理事会での勧告を待つまでもなく、この所見に基づく秘密保護法と関連する情報公開法、公文書管理法、公益通報者保護法などの法改正の準備を始めるべきです。

第5 歴史に関する教育と報道への干渉

1 植村隆元朝日新聞記者に対する脅迫
 ケイ氏はメディアの内容に対する政府のものの見方の影響は、歴史的な事実にまで広がっていることを指摘しています。
 「私の訪問中、第二次大戦中の慰安婦問題に関して、二つの状況を知りました。2014年の人権委員会(の勧告)を含む国際人権機構が、日本に対して、繰り返し、その問題を回避しないで対応するように求めてきました。これは、メディアの自由と知る権利の双方を含む表現の自由に関する問題の一つです。」
 「まず、最も初期に、韓国で慰安婦の取材を行った日本のジャーナリストらのうちの一人である植村隆氏に対する嫌がらせです。朝日新聞が他の記者らが書いた一連の記事 に関して攻撃に直面し、植村氏は、その朝日新聞のジャーナリストとしてのポジションから離れました。しかし、この攻撃を受けた一連の記事について、植村氏は関与していません。朝日新聞は後に他の記者らが書いた慰安婦に関する一連の記事を撤回しましたが、植村氏の記事は(撤回されず、残っています。)。それにもかかわらず、朝日新聞退職後に植村氏を受け容れた大学 は、彼を解雇するよう圧力を受け、外部の個人から、彼や、更に彼の娘までもが、暴力、性的暴力や死さえも含む暴力を加えるという脅迫を受けました。植村氏は、警察の保護を受け、いくつかの権限ある当局が大学の立場を支持しましたが、このような事態は、ジャーナリストとして根本的な仕事をするための植村氏の権利を保障する権限ある当局から、はるかに強い非難が行われるに値するものです。」


 多くの人権条約機関が慰安婦問題への対処を繰り返し日本に要求してきました。にもかかわらず、この問題を報道した朝日新聞の元記者である植村隆氏と所属する大学、家族までが脅迫されているにもかかわらず、政府による保護が不十分であると指摘しています。

2 教科書から慰安婦問題に関する叙述が削除されている
 「「慰安婦」問題も、権限ある当局による学校の教科書の準備の過程において、政府の影響のもとにおかれています。私は、文部科学省の教科書部門の高官と会いました。そこで、私は、教科書評議会(教科用図書検定調査審議会のこと)のメンバーは文科省により最終的に任命され、指定された基準に基づいて教科書を評価することを知りました。
 文科省では、いくつかの高校の世界史の教科書に慰安婦問題の記述があると述べました。外部の専門家らは、私に日本史を義務教育として教えないといけない中学校の教科書からは、慰安婦問題の記述が編集され削除されたと教えてくれました。」

 「一つの例では、「慰安婦」という記述がある場合であっても、「政府は、女性を強制連行した事実はないという見解である。」という責任を否認する文言が、政府のとっている逆の見解を示しています。」
 「政府が教科書において第二次世界大戦で行われた犯罪の現実がどのように扱われるかについて影響を与えることで、人々の知る権利及び過去を把握し理解する能力が阻害されています。」
 「政府は、歴史的な事実の解釈に干渉することを止めるだけでなく、このような重大犯罪を人々に知らせるための努力を支援すべきです。最初のステップは、教科書評議会(教科用図書検定調査審議会のこと)から、政府からの影響を排除できるように考え直すことを含むものと考えられます。」


 さらに、日本は過去の歴史についての議論を制限し、従軍慰安婦への言及は、中学校で必修科目である日本史の教科書から削除されつつあるという具体的な事実を指摘し、若い世代が歴史について正確な知識を持つことを阻まれ、国民が日本の過去の問題に取り組み理解する力を低下させていることを、重大な知る権利への制限であると指摘しているのです。

第6 差別とヘイトスピーチについて
1 まず差別行為を規制する法の制定を
 ケイ氏は国会を訪れ、法務委員会の委員と面会し、ヘイトスピーチの法規制に関する継続中の議論への関心を示しました。
 「近年、日本は、マイノリティーに向けた憎悪的表現の急増に直面しています。差別行為が問題の根本ですが、まだ、日本では、差別行為と闘うための包括的な法律がありません。2014年の人種差別撤廃委員会や今年3月の女性差別廃止委員会が、日本に対して、差別禁止法制の採用を勧告しました。この差別禁止法制が、このような憎悪的表現に対応するための極めて重要な第一歩です。すなわち、日本は、広く適用可能な差別禁止法制を採用しなければなりません。ヘイトスピーチ問題に対する最初の回答は、差別行為を禁止する法律を備えることです。それが実現すれば、憎悪的表現に反対する政府の広範な活動、すなわち憎悪に反対する教育や公的勧告等ですが、それらが差別に対する戦いにおいて真の影響力を持つことができます。」
 「私は、国会の法務委員会委員と会い、少数派に対するヘイトスピーチを戦うための法案作りについて学ぶ機会を持ちました。私は、委員会メンバーが、弱者に有害なスピーチを止めさせることと表現の自由の尊重の間で、彼らが、慎重にバランスをとろうと努力していることを賞賛します。私は、法案が、表現を犯罪とはしない一方で、ヘイトスピーチを受け入れない文化を作成するためのステップであると思います。それは、ヘイトスピーチを予防し排除するもので、私は、教育と(差別に)反対するスピーチに焦点を当てた取り組みをすることを奨励します。」

2 傾聴すべき人種差別禁止法の先行プラン
 ケイ氏は、差別禁止法によって人種差別の包括的な禁止を法制化することを優先させるべきであるとしました。ヘイトスピーチに対する答えは、まず、差別行為を禁止する法律を制定したあとで考えるべきだとしているのです。ヘイトスピーチに対する刑事規制については、レポートは明言していません。ヘイトスピーチに対する刑事規制は表現の自由に関する過剰な規制を招きかねないことが指摘されてきました。私自身は人種差別的暴力を誘発させる現実的な危険を含む言論は刑事法的に取り締まるべきであると考えていますが、現在の日本の政治状況も踏まえて、まず人種差別禁止の法制の整備を促した今回の所見の戦略は、私たちの取り組みの方向性とその順番、法戦略について、貴重な示唆を与えてくれるものです。

第7 デジタルの権利
1 インターネットにおける自由

 ケイ氏は、インターネットにおける自由の領域では日本の状況について高い評価を示している。
 「私は、インターネットにおける自由の領域において日本が示しているモデルがいかに重要であるのかという点を強調したいと思います。日本は、インターネットの普及というレベルでは高度な状態にあり、日本政府は、コンテンツ内容の制限に踏み込んでいません。ディジタル情報の自由(digital freedoms)への干渉がとても低いレベルにあることは、日本政府が表現の自由にコミットしていることを示しています。」
 インターネットの自由に対する規制が世界各地で強められている中で、日本の状況は守るべき点を残しているという見方は、重要な指摘です。

2 通信傍受法の拡大について
 ケイ氏は政府が提案し、国会で審議中である通信傍受法の改正・拡大についても次のように言及しました。
 「日本政府は通信傍受に関する法案を立案し、サイバー・セキュリティ(cybersecurity)への新しい取組を考えていますが、私が希望するのは、自由の精神、通信の安全確保(communication security)およびオンライン上の技術革新などが、このような規制の試みの中核部分において保持されることです。国会がこのような試みに関して公開の討論を行うことは重要であり、かつ、法律がプライバシーの権利や表現の自由を保護するさまざまな基準を尊重することが重要です。法律は、国家による通信に対する監視が、最も例外的な状況の下においてのみ、かつ、独立の司法機関の監督の下でのみ行われるということを明記しなければなりません。とりわけ、法律は、いかなる電子的な又はディジタルの監視であっても、少数派集団を標的にしたり、監視したりするなどの差別的運用が行われないことを確保する基本原則に忠実であるべきです。」

 所見は、通信傍受は例外的な措置でなければならず、独立の司法機関による監督が不可欠であることを指摘しています。ところが、現在提案されている刑事司法改革関連法案では、傍受対象の犯罪に、窃盗、詐欺、傷害や児童ポルノ規制などが含まれ、通信傍受の制限的な運用となっていた通信事業者の立ち会いもデータの暗号化によって省略できることとされています。例外的な状況に限定されていた制度の運用が爆発的に拡大するおそれがあるのです。このまま、この法案を成立させてはなりません。

第8 選挙運動に対する制限
 選挙運動に対する制限は、2008年にも自由権規約委員会によって取り上げられていたテーマです。ケイ氏は、次のように述べています。
 「私は、調査活動中、選挙運動に対して長年にわたって制約がなされてきたとの懸念をくり返し聞きました。政府は、公衆が候補者の情報にアクセスする能力を向上させ、国民が政治に十分関与できるようにする上で明らかに重要なインターネットでの選挙運動に対しては制約を適用していません。」
 「しかしながら、公職選挙法は、通常の選挙運動に制約を課すことを続けています。自由権規約委員会は、日本が公共の福祉を守るためであれば(表現の自由を制限できる)という前提で、表現の自由や公共の事項に関する行動に参加する権利を弱体化させていることから、日本に対して、選挙運動における不合理な制約を課す法律を廃止するよう注意を呼びかけています。選挙運動に対する規制は、選挙手続において開かれた表現空間を確保するためには許されるとしても、現在の規制は、過剰であり不均衡と思われます。」


第9 公共のデモ行進による表現の自由
1 抗議活動に対する過剰な規制

 「日本には公共のデモ行進という強力で素晴らしい文化があり、これは、時には路上での静かな抗議行動であったり、時には鳴り響くメガホンで実際より膨らんだ小規模な行進であったりします。国会に対する抗議に数万人が参加したことはよく知られています。とはいえ、活動家の中には、抗議行動に対して不必要な規制があったり、抗議行動の参加者を記録したり、政治的には右の立場から抗議行動に干渉する人たちを押さえられなかったり、イスラムコミュニティに対する監視の主張などの点について懸念する声があります。私との開かれた討論に参加した警察庁の担当者と私は、このような懸念を共有することができました。私は、これらの問題をフォローし、公共の抗議行動のための完全な表現空間を認めるために日本が行ったコミットメントについて、今後も対話を続けていくつもりです。」

2 沖縄の状況
 「私はまた、とりわけ沖縄における海上保安庁と公共の抗議行動との関係についての懸念を共有しました。昨年、私は、沖縄における抗議行動に対して過大な規制が行われているとの主張に関して私が抱いた懸念を、すでに関係機関に伝えていました。行き過ぎた実力行使がなされ、多数の人々が逮捕されたという点について信頼のおける報告を聞いています。私が特に懸念を抱いたのは、抗議行動の参加者を録画していた複数のジャーナリストに対して実力行使がなされたという点でした。国家の安全保障を確保するためには一定の範囲において制約を実施することが必要となりますが、行き過ぎた制約を避けるためには、慎重な審査手続が実施されなければなりません。この点についても、私は、沖縄での状況を注意深くフォローし、かつ、沖縄における平和的な抗議行動を認める表現空間を促進するために必要に応じて私の懸念を表明するつもりです。」


第10 表現の自由・特別報告者の画期的な暫定所見を契機に表現の自由を回復しよう

1 国連の条約機関が取り上げてきた日本の表現の自由に関する問題

 国連の条約機関や特別報告者制度、人権理事会はたびたび日本の人権問題を取り上げてきました。しばしば取り上げられてきたテーマは、死刑制度、代用監獄システム、慰安婦問題、女性差別、外国人に対する差別、難民などの諸問題でした。
 表現の自由に関して取り上げられてきたテーマは、選挙法における過剰な規制や市民によるビラ配布に対する刑事処罰の問題が、自由権規約委員会の2008年第5回審査の際の最終見解において取り上げられたのが最初でした。最終見解は次のように述べていました。
 「委員会は、公職選挙法による戸別訪問の禁止や選挙活動期間中に配布することのできる文書図画の数と形式に対する制限など、表現の自由と政治に参与する権利に対して加えられている不合理な制限に、懸念を有する。委員会はまた、政府に対する批判的な内容のビラを私人の郵便受けに配布したことに対して、住居侵入罪もしくは国家公務員法に基づいて、政治活動家や公務員が逮捕され、起訴されたという報告に、懸念を有する(規約19 条、25 条)。
 締約国は、規約第19 条及び25 条のもとで保障されている政治活動やその他の活動を警察、検察及び裁判所が過度に制限することを防止するため、その法律から、表現の自由及び政治に参与する権利に対するあらゆる不合理な制限を撤廃すべきである。」(26項)


 2014年の自由権規約委員会の第6回審査の際の最終見解においては、「公共の福祉」を理由とした基本的自由の制限の問題が取り上げられ、
 「委員会は,「公共の福祉」の概念が曖昧で制限がなく,規約の下で許容されている制限を超える制限を許容し得ることに,改めて懸念を表明する(第2条,第18条及び第19条)。
 委員会は,前回の最終見解(CCPR/C/JPN/CO/5, para. 10)を想起し,締約国に対し,第18条及び第19条の各第3項に規定された厳格な要件を満たさない限り,思想,良心及び宗教の自由あるいは表現の自由に対する権利への如何なる制限を課すことを差し控えることを促す。」
としました。ここでは、日の丸君が代の強制問題が明示はされていませんが、言及されているものと思われます(22項)。
 さらに、特定秘密保護法に関する問題が新しく取り上げられました。秘密保護法については、ドイツのアンヤ・ザイバート・フォー委員が、詳細に質問しました。またロドリー議長から「そもそもどういう問題が起きたから特定秘密保護法が必要ということになったのか」という立法事実を問う質問がなされました。これに対して日本政府は、法全体の英訳を委員会に提供し、一部の答弁は英語で、今回の立法は欧米なみのものであり、恣意的な運用はされない、報道目的の情報取得は処罰されないなどと回答しました。
 このような審査を経て、委員会は、勧告23項において、規約19条にもとづいて、
 「委員会は,近年国会で採決された特定秘密保護法が,秘密指定の対象となりうる事項の定義が曖昧かつ広汎であること,秘密指定の要件が漠然としていること,及びジャーナリストや人権活動家の活動に対して萎縮効果をもたらしかねない重い刑罰が規定されていることに懸念を有する。」としたうえで、
 「締約国は,特定秘密保護法とその運用が,自由権規約19条の厳格な要件に合致することを確保するため,あらゆる必要な措置を取らなければならず,特に次の事項が保障されなければならない。
(a) 特定秘密に指定されうる情報のカテゴリーが狭く定義されること,かつ,情報を求め,受け及び伝える権利に対するいかなる制約も,国家安全保障に対する特定かつ同定可能な脅威を防止するためのものであって,法定性,比例性及び必要性の原則に合致するものであること
(b) 何人も,国家安全保障を害することのない正当な公共の利益にかなう情報を拡散・頒布したことについて罰せられないこと」
を具体的に勧告したのです(23項)。

 さらに、24項では福島原発事故の問題が取り上げられ、「委員会は,福島において締約国が設定した公衆の許容被ばく限度が高いものであること,及び避難区域の一部が解除される決定がなされたことによって,人々が放射能で高度に汚染された地域に帰還する以外の選択肢を与えられないことに懸念を有する(6条,12条及び19条)。締約国は,福島原発災害によって影響を受けた人々の生命・生活を保護するためあらゆる必要な措置を講じ,かつ,放射線のレベルが住民にリスクをもたらさない場合に限って,汚染区域として指定されていた避難区域の指定を解除すべきである。締約国は,放射線量のレベルを監視し,かつ,このような情報を時機にかなった方法において,原発災害の影響を受けている人々に開示すべきである。」としています。

2 秘密保護法について自由権規約委員会の勧告を一歩進めた暫定所見
 この自由権規約委員会の最終見解とケイ氏の暫定所見を比較すると、秘密指定される情報の厳格な定義と公共の利益にかなう情報を提供した者を刑事処罰から解放することは共通していますが、ジャーナリストに対する保護規定(同法22条)は不十分であり、公益のために秘密を開示したジャーナリストや公務員を処罰の対象から除くことを明記したこと、特定秘密についても、公益通報した者が刑事罰から保護されるように法を改めることも明記されたことが特筆されます。さらに、特定秘密の指定と解除について法が設立した監視のメカニズムが十分に独立性のあるものとなっていないこと、とりわけ国会内の情報監視審査会の勧告に拘束力がないことを指摘した点は重要です。最後の点は自由権規約委員会の勧告内容には盛り込まれていなかった勧告であり、特定秘密保護法が市民の知る権利を決定的に損なうものに発展してしまうかどうかのカギを握るポイントであると考えます。
 我々は、この勧告の実現を政府に強く働きかけ続けなければなりません。

3 メディアの政府・スポンサーからの独立性を確立するために
 メディアの独立性を確保するための勧告が国連関係機関から日本政府に対して行われたのは、今回が初めてのことです。
 実は、日本弁護士連合会は、ケイ氏の来日中であった2016年4月14日に「放送法の『政治的公平性』に関する政府見解の撤回と報道の自由の保障を求める意見書」を取りまとめ、2016年4月27日付けで総務大臣に提出しています。
 この意見書は、「1 政府が放送事業者の放送番組について、放送法4条1項2号の「政治的に公平であること」の該当性を自ら判断し、その判断に基づいて放送事業者に対する行政指導や電波法76条に基づく無線局の運用の停止等の処分を行うことは、放送による報道の自由を侵害するものとして許されない。2 政府は、上記に反する見解を撤回し、放送局の自律的な取組によって放送倫理が確立されることを尊重すべきである。」というものです。
 この見解は、放送法4条1項2号の「政治的に公平であること」は、法規範性を持たないというBPOも採用している通説的な見解に立脚したもので、ケイ氏の見解とも共通するものですが、ケイ氏の見解は、このような誤った見解を導く危険性のある放送法4条そのものの削除、さらには放送規制権限を総務省から政府から独立した機関に移すべきとした点で、より進んだ内容であると評価することができるでしょう。
 NHKの経営委員の人事を政府ができ、予算についても国会で審議される点が問題としている点も重要な指摘です。
 さらに、特筆すべきことは日本におけるメディアが政府との適切な対抗関係を維持し、共同して政府からの圧力と闘わなければならないとした点です。この点はとても大切な指摘です。いま、世界を揺るがせている「パナマ文書  PanamaPapers」の報道は、全世界で100を超える報道機関の連携作業となっています。関わったジャーナリストは約400人で、全体を仕切ったICIJ (the International Consortium of Investigative Journalists) が「勝手のわからない外国のことは、その地の報道機関・ジャーナリストに任せよう」という方針で、この「特大リーク」に臨んだのです。
 少し前のエドワード・スノーデン氏によるアメリカの国家安全保障庁(NSA)のプリズムなどのシステムの内部告発報道は、アメリカの個人ジャーナリストのグリーンウォルド氏とイギリスの新聞ガーディアン、さらにはアメリカの新聞ワシントン・ポスト、CNNなどが、共同してスクープを展開し、ジャーナリストに対する弾圧の危険を分散し、回避することに成功しました。
 日本においては、朝日新聞の慰安婦報道と福島原発事故吉田調書報道の際に、メディアがメディアをバッシングする異常な展開となりました。メディア間の会社の枠を超えた連帯の復権、そのための具体的な手段と言うべきジャーナリストのユニオンの設立、記者クラブ制度の撤廃などを強く訴えた点においても、ケイ氏の暫定所見は極めて適切であり、深い内容を持つものだったといえるでしょう。
 このメディアの独立性をめぐる勧告こそが、ケイ氏の今回の公式調査において、もっとも時間を掛けて調査がなされ。重要なメッセージが込められているといえます。


本記事の筆者プロフィール
 1981年弁護士登録。第二東京弁護士会所属。2010年から2012年まで日弁連事務総長、日弁連刑事拘禁制度改革実現本部本部長代行、日弁連自由権規約WG座長、監獄人権センター代表、秘密保護法対策弁護団共同代表、脱原発弁護団全国連絡会共同代表、原発情報公開弁護団代表。

編著に
・『監獄と人権』(明石書店 1995)
・『監獄と人権2』(明石書店 2004)
・『刑務所改革』(菊田幸一と共編 日本評論社 2007)
・『憲法の危機をこえて 』(宮里邦雄、山口広と共編 明石書店 2007)
・『刑罰に脅かされる表現の自由 NGO・ジャーナリストの知る権利をどこまで守れるか? 』(GENJINブックレット 2009)
・『原発訴訟』(岩波新書2011)
・『秘密保護法対策マニュアル』(2015 岩波ブックレット)
・『朝日新聞吉田調書報道は誤報ではない』(編著 彩流社 2015)
・『市民が明らかにした福島原発事故の真実』(彩流社 2016)
・『止めよう!市民監視(アベノリスク)五本の矢―秘密保護法/盗聴法/共謀罪/マイナンバー/監視カメラ』(編著 樹花舎 2016)など。
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# by himituho | 2016-05-10 00:48 | 弁護団メンバー記事
2016年 03月 07日

安倍政権の『メディア規制』を許さない! 3・7「12・6を忘れない6日行動」院内集会

本日は、秘密保護法が強行採決された12月6日を忘れない「6日行動」の一環として、国会前行動と院内集会が開催されました。(今月は6日が日曜のため翌日7日に開催。)
「秘密保護法」廃止へ!実行委員会が主催で、秘密保護法対策弁護団も共催しました。

★3・7「12・6を忘れない6日行動」国会前行動★
■とき  3月7日(月)12時~13時
■ところ 衆議院第2議員会館前
■主催  「秘密保護法」廃止へ!実行委員会

土砂降りの中でしたが、国会の議員会館前で声をあげました。


★3・7「12・6を忘れない 6日行動」院内シンポジウム★
安倍政権の『メディア規制』を許さない!
-表現の自由・知る権利は私たちのものだ-
b0326569_21213245.jpg
■とき  3月7日(月)13時45分~16時
■会場:衆議院第2議員会館第7会議室
■内容:シンポジウム
◇コーディネーター
 海渡雄一さん[弁護士](実行委員会/対策弁護団)
◇シンポジスト
 田島泰彦さん(上智大学教授)
 岩崎貞明さん(MIC・民放労連)
 新崎盛吾さん(MIC・新聞労連)
 小川隆太郎さん(対策弁護団)
■共催:「秘密保護法」廃止へ!実行委員会、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)、秘密保護法対策弁護団

会場は満席で、立ち見が何人も出るほどの大盛況でした。
メディア規制問題を考えるとき、はじまりは秘密保護法であったこと、
NHK人事問題、朝日新聞バッシングを通じて、メディアの抵抗力が奪われてきたこと、
「放送法遵守」を掲げて、政府に批判的なテレビ報道に圧迫が加えられるようになり、これに意を強くして高市総務相の停波発言が出てきたこと、
2016年の番組改編では、政府に対して批判的なキャスターが一掃されようとしていることなどの事実分析がなされた上、
これに対して、憲法および国際人権法の観点から、きちんと問題発信していくべきことが議論されました。
特に、メディア内で頑張っているジャーナリストを励まし、フリー・ジャーナリストを物心両面で支えると共に、
私たち市民がネットを通じた自らの表現手段を持ち、発信していくことの重要性が指摘されました。

新聞労連の新崎さんからは、新聞ジャーナリズムが岐路に立たされているという観点から報告頂き、
民放労連の岩崎さんからは、主に高市総務相の停波発言をめぐる民放労連の公開質問状と、これに対する不誠実な回答内容について報告がありました。


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# by himituho | 2016-03-07 21:43 | 報告
2016年 02月 29日

緊急事態条項が通ってしまった未来からの伝言

緊急事態条項が通ってしまったらどんな世の中になるのかというシミュレーションを書いて、伊藤真先生の法学館憲法のサイトに載せてもらいました。(弁護士内山宙)
 憲法が改正されたころ、私はまだ高校生になったばかりだった。改正案の内容は、私が中学で習っていた憲法の原則からすると、ちょっとおかしいんじゃないかと思ったけど、選挙権のない自分には何もできなかった。
 そして、18歳になったら選挙に行くものだと思っていたのに、今は選挙はほとんど実施されていない。憲法が改正されて、緊急事態条項というものが入ったからだ。
 緊急事態条項が通って直ぐに某国がミサイルを発射しようとしているということで騒ぎになった。総理大臣が緊急事態だとテレビで宣言していたが、緊急事態にしては、記者会見の演出がやけに準備周到だったことが印象的だった。そのミサイルは、結局衛星軌道に乗ったそうで、人工衛星だったんじゃないかと言われていた。それで、緊急事態の宣言をした根拠を出せと野党が追及していたけれども、緊急事態宣言について国会の承認を得る期限が決まっていなくて、首相はなかなか国会承認の手続を取ろうとしなかった。とはいえ、100日を超えて継続する場合に国会の承認を得なければならないということになっているので、さすがに100日になる前に事後承認の手続を取ることになった。しかし、緊急事態宣言の根拠となる事実関係自体が特定秘密に当たるということらしく、防衛省が「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがある」と言って、資料は国会には出てこなかった。
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# by himituho | 2016-02-29 19:38 | 弁護団メンバー記事


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