2016年 02月 29日

緊急事態条項が通ってしまった未来からの伝言

緊急事態条項が通ってしまったらどんな世の中になるのかというシミュレーションを書いて、伊藤真先生の法学館憲法のサイトに載せてもらいました。(弁護士内山宙)
 憲法が改正されたころ、私はまだ高校生になったばかりだった。改正案の内容は、私が中学で習っていた憲法の原則からすると、ちょっとおかしいんじゃないかと思ったけど、選挙権のない自分には何もできなかった。
 そして、18歳になったら選挙に行くものだと思っていたのに、今は選挙はほとんど実施されていない。憲法が改正されて、緊急事態条項というものが入ったからだ。
 緊急事態条項が通って直ぐに某国がミサイルを発射しようとしているということで騒ぎになった。総理大臣が緊急事態だとテレビで宣言していたが、緊急事態にしては、記者会見の演出がやけに準備周到だったことが印象的だった。そのミサイルは、結局衛星軌道に乗ったそうで、人工衛星だったんじゃないかと言われていた。それで、緊急事態の宣言をした根拠を出せと野党が追及していたけれども、緊急事態宣言について国会の承認を得る期限が決まっていなくて、首相はなかなか国会承認の手続を取ろうとしなかった。とはいえ、100日を超えて継続する場合に国会の承認を得なければならないということになっているので、さすがに100日になる前に事後承認の手続を取ることになった。しかし、緊急事態宣言の根拠となる事実関係自体が特定秘密に当たるということらしく、防衛省が「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがある」と言って、資料は国会には出てこなかった。
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# by himituho | 2016-02-29 19:38 | 弁護団メンバー記事
2016年 02月 25日

会計検査制度と秘密保護法

2016年2月23日
会計検査制度と秘密保護法

海 渡 雄 一     
(秘密保護法廃止実行委員会・
秘密保護法対策弁護団)

1 憲法90条と会計検査院
 みなさん憲法90条をご存じでしょうか。憲法90条は「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。」と定めています。会計検査院のホームページには次のように説明されています。
「会計検査院は、国の収入支出の決算、政府関係機関・独立行政法人等の会計、国が補助金等の財政援助を与えているものの会計などの検査を行う憲法上の独立した機関です。
 国の活動は、予算の執行を通じて行われます。予算は、内閣によって編成され、国会で審議して成立したのち、各府省等によって執行されます。そして、その執行の結果について、決算が作成され、国会で審査が行われます。予算が適切かつ有効に執行されたかどうかをチェックすることと、その結果が次の予算の編成や執行に反映されることが、国の行財政活動を健全に維持していく上できわめて重要です。
 そこで、憲法は、「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。」と定めています。」


 会計検査院は国の決算についての独立機関です。会計検査院は憲法上の機関であり、検査官の身分や給与の保障、予算上の独立性が認められ、内閣に対して独立の地位を有するとされています(会計検査院法(昭和22年法律第73号)1条)。そして、会計検査院法第26条は、会計検査院から検査上の必要により帳簿、書類その他の資料若しくは報告の提出の求めを受け、又は質問され若しくは出頭の求めを受けたものは、これに応じなければならないと規定しています。
 会計検査院は、憲法上大きな独立性を保障されており、「厳格な三権分立主義をとっている現行憲法の認めたほとんど唯一の例外」「組織面からいえば、憲法は四権分立主義をとる」(杉村章三郎『財政法』〔有斐閣、1959年〕108頁、小林・小林直樹『憲法講義(改訂版)』〔東大出版会、1976年〕762頁注13)と説く見解もあります。

2 戦争の反省から生まれた会計検査院
 なぜ、憲法90条は「すべて」検査するとしているのでしょうか。「すべて」とは、その会計年度において、現実に収納された収入および現実に支出された歳出の全部の意味です(宮澤俊義著・芦部信喜補訂『全訂 日本国憲法』〔日本評論社、1978年〕752頁)。明治憲法下では、政府の機密費に関しては、会計検査院の検査に服さないとされました(旧会計検査院法23条)。機密費については「検査ヲ行フ限リニ在ラス」とされていたのです。
 軍だけでなく、外務省などの機密費について、会計検査院の検査を受けないですんだのです。加えて、軍の統帥事項の準備のための物品費用については、会計検査院の検査を免れる仕組みとなっていました。このようなしくみが軍の予算の拡大、政府のコントロール不能の状態を招いたのです。このことの反省から、憲法90条は、「すべて」検査し、例外は認めないこととしたのです。

3 会計検査院と秘密保護法制定
 会計検査院が、特定秘密保護法案の閣議決定直前の2013年9月に、この法案が成立してしまうと特定秘密に指定された書類が会計検査に提出されない恐れがあり、これは憲法90条に反するのではないかという指摘をしていた。
 このことは、毎日新聞が情報公開によって入手した文書によって明らかとなった。『毎日新聞』は2015年12月8日付朝刊で次のように報じました。「特定秘密保護法:「憲法上問題」検査院が支障指摘」(社会部・青島顕記者)がそれです。この毎日新聞の記事は、秘密保護法を一貫して追い続けてきた青島記者の素晴らしいスクープでした。第20回新聞労連ジャーナリズム大賞を受賞したのも当然です。
「開示された文書によると13年9月、同法の政府原案の提示を受けた検査院は、『安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ』がある場合、特定秘密を含む文書の提供を検査対象の省庁から受けられない事態がありうるとして、内閣官房に配慮を求めた。憲法90条は、国の収入支出の決算をすべて毎年、検査院が検査すると定めているためだ。
 ところが、内閣官房は『検査院と行政機関で調整すれば(文書の)提供を受けることは可能』などと修正に応じなかった。検査院側も譲らず、同年10月上旬まで少なくともさらに2回、憲法上問題だと法案の修正を文書で繰り返し求めた。
 結局、検査院と内閣官房の幹部同士の話し合いを経て同年10月10日、条文の修正をしない代わりに『秘密事項について検査上の必要があるとして提供を求められた場合、提供する取り扱いに変更を加えない』とする文書を内閣官房が各省庁に通達することで合意した。約2週間後の10月25日に法案は閣議決定され、国会に提出されて同年12月に成立した。
 それから2年たつが7日までに通達は出ていない。(以下省略)」


4 政府による通達
 この毎日新聞記事をきっかけとして、政府は、2015年12月25日付で、内閣情報調査室次長名で秘密指定権限を持つ防衛省など20の行政機関の担当局長らに通達を出しました。この通達は「各行政機関は会計検査院から検査上の必要があるとして提供を求められた際には、提供を行う取り扱いをしている」と説明し、2014年12月の法施行に関して「この取り扱いに何らの変更を加えるものではない」と従来通りの対応を求めています。

5 衆院予算委員会での質疑
 2月10日の衆院予算委員会で、この問題を民主党の階猛議員が取り上げました。
 「行政機関が安全保障上の理由から特定秘密の提供を拒否できるとした特定秘密保護法10条1項が会計検査にも適用されるかどうかについて、安倍首相は、『特定秘密について会計検査院が検査を求めた時に、この条項をもってこれを提供しないことはおよそ考えられない』として、実務上は適用されないとの見解を示したが、法務大臣は『適用がある』、『適用がない』と答弁がふらつき、委員会は騒然となった」と報じられています(『朝日新聞』2月11日付「新任閣僚ふらふら答弁」)。

6 政府統一見解公表される

 2月12日に内閣官房は、「会計検査院に対する特定秘密の提供について(政府統一見解)」を公表しました。短い文書なので、全文を以下に引用しておきます。
「1 特定秘密保護法第10条第1第1号の解釈
 特定秘密保護法第10条に基づく特定秘密の提供は、会計検査院を含むすべての相手方について、行政機関の長が我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めたときに限り、行われる。
 2 安倍総理の答弁(2月10日衆論院予算委員会)
①「我が固の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めたとき、これは、かからないということではありません」
②「しかし会計検査院がこれに当たるということはおよそ考えられない」「我が国の安全保障に著しい支障、著しい支障という、これは相当の縛りでございますから、これを会計検査院に適用するということはおよそ考えられない」等と答弁した。
 3 岩城国務大臣の答弁(同上)
①「第10条1項にあります我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めたとき、これは会計検査院にも適用されます」
②「検査に必要な資料の提供、これについては適用がない」、「検査上の必要があるとして求められた資料、これにつきましては、法的に適用されない」等と答弁した。
 4 会計検査院からの資料要求について法第10条第1項第1号は「適用」されるか否か、また、安倍総理と岩城国務大臣の答弁の関係
 総理、大臣とも、まず、特定秘密の提供には、法第10条第1項第1号が一般的に適用されること(上記1の趣旨)を答弁している(①)。
 その上で、総理、大臣とも、会計検査院に検査に必要な資料の提供を法第10条第1項第1号に沿って検討する際に、我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めたときという同号の限定が具体的に適用され、その結果、特定秘密の提供が行われないことはおよそ考えられないという趣旨で答弁している(②)。①と②の聞に矛盾はなく、また、総理と大臣の答弁の聞にも矛盾はない。」


 政府は、このように述べていますが、やはり答弁には矛盾があるように思います。安部首相が答弁した「特定秘密の提供が行われないことはおよそ考えられない」ということは本当に保障されているのでしょうか。私にはその制度的保障は何もないように思われます。

7 会計検査制度にも制約もたらす秘密保護法は廃止するしかない

 政府が会計検査院検査官の候補者として国会に提示した小林麻理(まり)・元早稲田大大学院教授は1月7日、国会で所信を述べた際、「特定秘密に係るとして情報が提供されないことがあってはならない」と発言しています。しかし、この通達にもかかわらず、会計検査院の検査は特定秘密の壁に阻まれる可能性が生じています。
 会計検査院の検査は、憲法90条第1項(及び同第2項)を直接の根拠としていますから憲法より下位の法令によって妨げてはならないものです。政府統一見解は、憲法より下位の法規範である秘密保護法によって、憲法上定められた会計検査院の検査権限を制限しようとするものであり、この点でも憲法違反であるといえます。
 秘密保護法は憲法21条の表現の自由・知る権利、憲法9条の平和主義、憲法31条の適正手続だけでなく、憲法90条の会計検査制度にも違反する悪法です。やはり、秘密保護法は一刻も早く廃止する必要があるとあらためて思いました。次の選挙で、戦争法と同時に秘密保護法を廃止できる政府を樹立できるよう努力しましょう。

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# by himituho | 2016-02-25 14:36 | 弁護団メンバー記事
2016年 02月 04日

自民党改憲案緊急事態条項はナチスの1933授権法と1938国家総動員法の再来だ!

自民党改憲案緊急事態条項はナチスの1933授権法と1938国家総動員法の再来だ!
-緊急事態条項は、国会の自殺につながりかねない-

2016年1月26日
海渡 雄一

内容
1 自民党改憲案における緊急事態条項
2 ナチス授権法と同じという批判は度を超しているか?
3 ナチス授権法の立法経過とその内容、その後
4 授権法に倣った国家総動員法
5 なぜ、日本国憲法には緊急事態条項がないのか
6 戦時は常態化し、永続化する危険が高い
7 緊急権規定は濫用されてきた
8 緊急事態条項を作らない決断から生まれる真剣な平和への努力
9 民主主義と立憲主義の命運を掛けた闘い
参考文献

1 自民党改憲案における緊急事態条項
 安倍政権は、ついに2016年1月の通常国会の開会を機に、夏の参院選の争点に憲法改正を掲げ、明文改憲に突き進もうとしている。そして最初のターゲットされているのが、緊急事態条項である。
 これは、民主主義の抹殺につながりかねない劇薬であり、「お試し改憲」などと言う生やさしいものではない。自民党改憲案を見てみよう。
「第98条(緊急事態の宣言)
1 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。(以下略)」
「第99条(緊急事態の宣言の効果)
1 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。」としている。

2 ナチス授権法と同じという批判は度を超しているか?
 福島みずほ参議院議員は2015年1月19日の参院予算委員会において、「国会は唯一の立法機関です。しかし、内閣が法律と同じ効力を持つことができる政令を出すのであれば、立法権を国会から奪うことになる。国会の死ではないでしょうか。」「まさに内閣限りで法律と同じ効力を持つことができるのであれば、これはナチス・ドイツの国家授権法と全く一緒です。これは許すわけにはいきません。」と質問した。これに対して、安倍首相は「先ほどナチスの授権法という、いささかちょっとこれ限度を超えた批判がございました。我々が出している緊急事態に関する憲法改正のこの草案につきましては、これ諸外国に多くの例があるわけでございまして、まさに国際的に多数の国が採用している憲法の条文であろうと、こう考えているところでございますから、是非そうした批判は慎んでいただきたいと、このように思うところでございます。」と応えた。自民党改憲案がナチス授権法と同じという批判は本当に度を超しているだろうか。歴史と事実に基づいて検証してみたい。

3 ナチス授権法の立法経過とその内容、その後
(1)ナチスの権力掌握
 自民党の改憲案はナチスの授権法と似ているのは、政令が法律の変わりとなり、人権が制約されてしまう点である。
 ヒトラーは1933年1月首相になった。しかし、この段階では国会の多数は構成できていない。ヒトラーは国会を解散し、4年間の政権委任を訴える選挙キャンペーンを行い、この選挙中の2月27日にドイツ国会議事堂放火事件が発生した。ヒトラーはこれを共産主義者によるものと決めつけ、大統領に要請し、共産主義暴動の発生に対応するためとして、「民族と国家防衛のための緊急令」などを布告させた。ヒトラーはこの大統領令に基づいて、国会議員を含む多数の共産党員・社会民主党員を逮捕・予防拘禁した。このような異常な選挙の結果、ナチスは288議席、連立を組む国家人民党は52議席を得て、議会の過半数を獲得した。社民党は120、共産党は81議席を得たが、ヒトラーは共産党と社民党の議員がほとんど出席できない状態で、ポツダムにおいて3月21日議会を開き、「民族および国家の危難を除去するための法律案」(全権委任法・授権法)を国家人民党と共同で提出した。

(2)授権法の全文とその審議
 この法律は全5条からなる簡単なもので、そのポイントは議会から立法権を政府に移譲するものであった。
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(授権法 全文 Wikipedia 全権委任法のページより)

授権法全文
「前文:国会(ライヒスターク)は以下の法律を議決し憲法変更的立法の必要の満たされたのを確認した後、第二院の同意を得てここにこれを公布す。
1.ドイツ国の法律は、憲法に規定されている手続き以外に、ドイツ政府によっても制定されうる。本条は、憲法85条第2項および第87条に対しても適用される。
2.ドイツ政府によって制定された法律は、国会および第二院の制度そのものにかかわるものでない限り、憲法に違反することができる。ただし、大統領の権限はなんら変わることはない。
3.ドイツ政府によって定められた法律は、首相によって作成され、官報を通じて公布される。特殊な規定がない限り、公布の翌日からその効力を有する。憲法68条から第77条は、政府によって制定された法律の適用を受けない。
4.ドイツ国と外国との条約も、本法の有効期間においては、立法に関わる諸機関の合意を必要としない。政府はこうした条約の履行に必要な法律を発布する。
5.本法は公布の日を以て発効する。本法は1937年4月1日と現政府が他の政府に交代した場合、いずれか早い方の日に失効する。」
 中央党はこれに賛成した。議会に出席できたドイツ社民党のオットー・ヴェルス党首は唯一の反対演説を行った。その演説は次のような内容であった。

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(授権法が採択された国会 Wikipedia 全権委任法のページより)

「暴力による平和からは、いかなる繁栄も生まれない。真の民族共同体というものはそうしたものに基礎を置くことは出来ない。その第一の前提は平等の権利である。自由と生命を奪いとることはできても、名誉はそうはいかない(Freiheit und Leben kann man uns nehmen, die Ehre nicht.)。社会民主党が最近被った迫害にてらして言えば授権法への賛成を我々に要求したり期待することなど誰にも出来ないはずである。3月5日の選挙の結果、政府与党は多数を獲得し、憲法の文言と目的に忠実に統治することが可能になったのではないか。こうした可能性が存するところでは、そうする義務も存在する。およそ批判とは有益なものであり、必要でもある。ドイツに国会が生まれて以来、民族の代表者が政治に関与し参画することが今日のように排除されたことはいまだかつてなかったことである。新たな授権法が成立すれば、こうした状況がさらに加速されるであろう。革命の続行のために国会を真先になくしてしまうこと、それが君達の要求なのだ。しかし、現に存在するものを破壊することが革命ではない。法というヴェールをかけたとしても、暴力による政治という現実を覆い隠すことは不可能である。いかなる授権法も永遠かつ不変の理念を抹殺することはできない。社会主義者鎮圧法が社会民主主義を抹殺しえなかったように、新たな迫害の中からドイツ社会民主党は新たな力を汲み取るであろう」
 この法律は、形式的にはワイマール憲法の改正手続を践んでいたが、近代的な立憲主義を公然と否定した独裁立法であり、謀略と弾圧によって実現されたといえるだろう。

(3)授権法はドイツの敗戦まで効力が存続した
 授権法は全文に示したとおり、1937年4月1日が期限とされていた。当初政府省庁は「ライヒ立法に関する法律」を制定し、指導者兼首相に立法権が存在するということを明文化しようとした。ヒトラーは当初この案に賛成していたが、「心理学的理由」からこの立法を拒否し、授権法を延長することとした。1939年にも同様の措置がとられた。
 1943年には『政府立法に関する指導者命令』が発せられた。授権法に基づく政府の権限は引き続き行使できることとなった。この命令には「国会がこの措置を批准することを留保する」という文言が存在したが、国会はこれ以降開かれず、批准措置がとられることはなかった 。
 1945年9月20日、ドイツを占領していた連合国管理理事会は「ナチス法の廃止に関する管理理事会法第1法律」を発し、他のナチス政権下に成立した複数の法律とともに、授権法と関連する法令の廃止を宣言した。結局、ドイツの敗戦まで、授権法体制は続き、国会は復活できなかったのである。

4 授権法に倣った国家総動員法
 大日本帝国憲法には、天皇が国家緊急権を行使する規定が存在した。緊急勅令制定権(8条)、戒厳状態を布告する戒厳大権(14条)、非常大権(31条)、緊急財政措置権(70条)などが定められていた。
 戦前の日本において、緊急勅令という制度があった。自民党改憲案は、戒厳制度と緊急政令制定権を併せたもので、大日本帝国憲法にも似ている。
 この制度に基づいて制定された有名な法律に、1928年の治安維持法改正案がある。適用範囲を「目的遂行」行為にまで拡大し、罰則を死刑にまで引き上げた。
 また、ファシズム的な立法としては、この治安維持法、秘密保護法の母法と言うべき軍機保護法、国防保安法などが有名であるが、戦時体制の総仕上げの意味合いを持った法律が国家総動員法であった。
 国家総動員法は、日中戦争が本格化した1937年の翌年、1938年に制定された。総力戦遂行のため国家のすべての人的・物的資源を政府が統制運用できることを規定した法律となっている。資源の動員のための統制が基本であるが、労働争議の制限や新聞や出版の制限までを含む、戦争遂行のための総合的な法律であった。また、この法律は、施行の詳細はすべて勅令(緊急勅令ではない)に委任されており、その立法形式は前述のナチス授権法に倣ったとも言われる。安倍政権は、授権法に倣って、国家総動員法体制の再構築を企図しているようだ。

5 なぜ、日本国憲法には参院の緊急集会以外に緊急事態条項がないのか
 日本国憲法には、衆議院の解散中で国会が開催できない時に緊急事態が生じたときの「参院緊急集会」に関する憲法54条の規定以外に緊急事態に関する条項はない。
 このことをどのように解釈するか、憲法学者の意見は分かれているが、もっとも素直な考え方は、戦前のファシズムの反省に立って、緊急事態条項を置かないという選択をしたものと考えられる。憲法を制定した第90帝国議会の討議 では、大日本帝国憲法31条を引いて、緊急時に国民の人権を停止する制度が必要ではないかという議員の質問に対して、国務大臣金森徳次郎が次のように答弁している。
「今御示シニナリマシタヤウナ場合ヲ予想スルコトハ可能デアルト思フノデアリマス現行憲法ニ於キマシテモ、非常大権ノ規定ガ存在シテ居ツタコトハ今御示シニナツタ通リデアリマス併シナガラ民主政治ヲ徹底サセテ国民ノ権利ヲ十分擁護致シマス為ニハ、左様ナ場合ノ政府一存ニ於テ行ヒマスル処置ハ、極力之ヲ防止シナケレバナラヌノデアリマス言葉ヲ非常ト云フコトニ藉リテ、其ノ大イナル途ヲ残シテ置キマスナラ、ドンナニ精緻ナル憲法ヲ定メマシテモ、口実ヲ其処ニ入レテ又破壊セラレル虞絶無トハ断言シ難イト思ヒマス、随テ此ノ憲法ハ左様ナ非常ナル特例ヲ以テ――謂ハバ行政権ノ自由判断ノ余地ヲ出来ルダケ少クスルヤウニ考ヘタ訳デアリマス、随テ特殊ノ必要ガ起リマスレバ、臨時議会ヲ召集シテ之ニ応ズル処置ヲスル、又衆議院ガ解散後デアツテ処置ノ出来ナイ時ハ、参議院ノ緊急集会ヲ促シテ暫定ノ処置ヲスル、同時ニ他ノ一面ニ於テ、実際ノ特殊ナ場合ニ応ズル具体的ナ必要ナ規定ハ、平素カラ濫用ノ虞ナキ姿ニ於テ準備スルヤウニ規定ヲ完備シテ置クコトガ適当デアラウト思フ訳デアリマス、現行憲法ニ於キマシテ、二段ニモ三段ニモ斯様ナ非常ナ場合ニ応ズル用意ガアツテ、謂ハバ極メテ用意周到デハアツタノデアリマスガ、実際左様ノ手段ガ明白ニ用ヒラレタ場合ハナカツタヤウニ思ツテ居リマスデアリマスカラ余リニモ苦労シ過ギルヨリモ寧ロ自由保障ノ安全ヲ期シタ訳デアリマス」
(衆憲資第87号 「『緊急事態』に関する資料」 平成25年5月 衆議院憲法審査会事務局 14ページ)

 まさに、戦前の反省を踏まえ、「行政権の自由判断の余地を出来るだけ少なくするように考えた」というのである。緊急事態条項にもとづく法律に代わる政令は、最後は国民総動員、国民総監視、徴兵制、反戦運動の非合法化、報道機関の事前検閲・国家統制まで突き進む危険性が強い。歴史的に存在した戒厳令、戦時体制の多くが戦争に反対する・協力しない個人・団体に対して致命的な人権侵害を引き起こしてきた。日本や独伊のファシズムの歴史はこのことを冷厳な歴史的事実として教えてくれる。緊急事態条項は、営々として築き上げられてきた人権保障のシステムや人権のスタンダードを一気に無効化してしまう魔力を持っている。このことを反省して作られた緊急事態条項をもたない憲法を、易々と変えることは許されない。

6 戦時は常態化し、永続化する危険が高い
 現代の戦争の性格からして、戦争には終わりがなく、泥沼化する。冷戦後の国際紛争の変化によって、古典的な国と国が宣戦布告をして戦争をするというパターンが崩れてきている。民族的・宗教的な少数派とテロリストを明確に区別することは困難である。
 9.11後にアメリカの起こした反テロ戦争は、イラクのフセイン政権を対象としたイラク戦争をのぞいて、特定の国家を対象としておらず、テロリスト集団を対象としているため、国際法的にこれを終わらせる適切な外交手段が見あたらない。
 ドローン攻撃は、攻撃対象だけでなく周囲の市民を巻き込み、あらたなテロリスト予備軍を不可避的に作り出す。テロの根源はなくならず、世界全体が終わりのない戦争状態に突入していっているようにみえる。戦時は長期化し、緊急事態は永続化する可能性がある。

7 緊急権規定は濫用されてきた
 安倍首相は、緊急権規定は多くの国の憲法にもあると主張する。憲法に緊急権規定がある国も、ない国もある。英米法においては憲法自体に緊急権の規定はなく、コモン・ローや個別立法によって緊急事態が取り扱われてきた。
 他方で、大陸法のフランス、ドイツでは、フランス共和国憲法(第二、第四、第五共和制)、ドイツ帝国憲法、ヴァイマル憲法、ドイツ連邦共和国基本法に国家緊急権の規定が存在するのは事実である。
 しかし、緊急権規定はこれまでも濫用されてきたことを指摘しなければならない。まず、ドイツのワイマール憲法48条の大統領非常権限は、14年間に250回も濫用され、それが授権法を生み出し、立憲主義の死につながった。水島朝穂教授は、156回参議院憲法審査会において、ワイマール憲法の失敗から、「ドイツ基本法は、当初、緊急事態に関する規定を一切持たず、1968年改正で包括的な緊急事態規定が導入された際にも、その濫用を制限する安全装置がビルトインされた。ドイツ基本法の緊急事態条項には次の三つの安全装置が組み込まれている。(1) 緊急事態の認定権をぎりぎりまで議会に留保する、(2) 防衛事態等に際して市民に義務を課す場合に憲法改正に匹敵する連邦議会の投票の3分の2の賛成を必要とする、(3) ゼネストなど対内的緊急事態の概念を除外する(87a条4項の限定化)」と報告している。
 また、フランスでは、アルジェリア危機等を契機として1958年に制定された第五共和国憲法には、緊急事態において大統領に強大な権限を付与する第16条の規定とともに、第36条に合囲状態が規定された。ドゴール大統領は、1961年のアルジェリア危機の際に非常措置権を行使したが、内乱の終息後5か月も非常措置権を解除しなかった。
 このように、緊急事態条項は濫用される危険性があり、権力の座にあるものに抑制が欠けているときには、立憲主義を崩壊させる劇薬になりうる。

8 緊急事態条項を作らない決断から生まれる真剣な平和への努力
 日本国憲法9条は、戦争を放棄した。戦争を放棄し、緊急事態条項を持たないことによって、日本国憲法は国民が戦争を避け外交的な努力を通じて世界の平和を守ろうと努力することで、国の安全を保とうとする思想に立脚していると考えられる。
 小林直樹(東大教授 当時)は、『国家緊急権』(学陽書房、1979年)において、日本国憲法は、「旧体制の絶対主義的性格とミリタリズムの一掃をめざした画期的な平和=民主憲法であることによって、緊急権制度をあえて置かなかったと考える。」(同書181ページ)と解釈している。このような解釈は、先に引用した憲法制定議会における金森大臣の答弁とも合致する。この緊急事態条項を持たないという憲法の初心は、憲法9条の平和主義、そして言論表現の自由をはじめとする基本的人権を不可侵のものとして保障した自由主義と一体をなすものである。
 日本は、仏教の信徒が国民の大半を占め、いま世界に広がるキリスト教とイスラム教の間の宗教的な不寛容の高まりに対して、宗教的に中立的な立場に立つことのできる位置にいる。また、G8諸国の中で、中東戦争に従軍したことがなく、イランやアラブ諸国と比較的によい関係を保ってきた。
 このような外交的なポジションを活かし、寛容と話し合いを呼びかけ、テロの根源を克服し、紛争地域に平和を取り戻していくために地道な取り組むことこそが、日本国憲法の考え方であり、世界に戦争とテロのない社会を創り、日本みずからの平和を守る手段であると信ずる。

9 民主主義と立憲主義の命運を掛けた闘い
 安倍政権は、夏の参議院選挙(同日選か?)に勝利すれば、まず、緊急事態条項を憲法に取り入れ、戦争状態=緊急事態を作りだし、これを永続化すれば、国会=立法府の機能しない独裁体制を続けられると考えているのだ。
 諸外国にも国家緊急権制度はあるなどという説明にだまされてはならない。テロとの闘いは終わりのない戦争状態=緊急事態となりかねない。このような独裁政治の永続化を許してはならない。緊急事態条項を突破口とする安倍改憲に抗する闘いは、民主主義と立憲主義の命運を掛けた、絶対に負けられない闘いだ。

参考文献
・橋爪大三郎『国家緊急権』2014年 NHKブックス
・小林直樹『国家緊急権』1979年 学陽書房
・国立国会図書館調査及び立法考査局 『主要国における緊急事態への対処 : 総合調査報告書』2003年
・衆議院憲法調査会安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会『「非常事態と憲法」に関する基礎的資料』2003年
・衆憲資第87号 「『緊急事態』に関する資料」 平成25年5月 衆議院憲法審査会事務局
・富永健「国家緊急権の法制化について」(『憲法論叢』第3巻、関西憲法研究会、1996年、71-90頁)

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# by himituho | 2016-02-04 11:04 | 弁護団メンバー記事
2016年 01月 08日

会計検査院と秘密保護法

 会計検査院が、秘密保護法が成立する前に、秘密保護法に憲法との関係で問題があると指摘していたが、その問題が今も残ったままであるという、下記ページの報道が最近ありました。
http://mainichi.jp/articles/20151208/k00/00m/040/176000c

すなわち、
① 秘密保護法によれば、ある情報を秘密に指定した行政機関が、当該情報の提供につき「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがある」と判断すれば、当該情報を会計検査に提出しないことができ、これが、国の収入支出の決算のすべてを会計監査院が検査することとしている憲法の規定に反する、と、会計検査院が内閣官房に指摘した
② 内閣官房は秘密保護法の修正に応じなかった
③ 会計検査院と内閣官房が協議した結果、会計検査院が情報提供を求めた場合には応じる旨を内閣官房が各省庁に通達することで合意し、秘密保護法は成立した
④ その後、その通達がまだ出ていない
というのです。

第二次大戦前、軍関係の予算の多くが会計検査の対象にならなかった反省から、憲法で、国の収入支出の決算のすべてを会計検査院が検査することとされたにもかかわらず、その検査ができない事態が秘密保護法により作られているといわなければなりません。

それにしても、約束を破っても、憲法に反してでも、国家が秘密を守りたい、というのは、本当に恐ろしいです。
(弁護士・藤原家康)


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# by himituho | 2016-01-08 20:29 | 弁護団メンバー記事
2015年 12月 03日

12.6集会「秘密保護法制定からの2年を問う」

「秘密保護法」廃止へ!実行委員会主催で、秘密保護法の成立から2年を経過する12月6日、二度と戦争を起こさせてはならないという気持ちを込めて、以下の集会を開催します。
ぜひ皆さま、ご参加ください!

12.6秘密保護法制定からの2年を問う
秘密法と戦争法がつくる「準戦時体制」とは何か

秘密保護法制定から2年になります。安倍政権は、秘密法制定に続き、平和を求める圧倒的な声を無視し、戦争法の成立を強行しました。
秘密法と戦争法が連動し、「戦争は秘密、嘘からはじまる」時代が到来しようとしています。こうした事態に、長い間、政治的な主義主張は掲げないとしてきた保阪正康さんは戦争関連法に対し、強い危機感を抱き、反対の立場を鮮明にしました。近代史研究家の保阪さんをお招きし、安倍政権とはどういう政権なのか、また、私たちはどう対応すべきなのか、お話していただきます。ぜひ、ご参加ください。

■集会 『秘密保護法制定からの2年を問う 秘密法と戦争法がつくる「準戦時体制」とは何か』
■とき 12月6日(日)13時45分~16時30分 (13時15分開場)
■ところ 千駄ヶ谷区民会館2階ホール( 東京都渋谷区神宮前1-1-10)
交通:JR山手線 原宿駅(竹下口)より徒歩約6分
地下鉄千代田線 明治神宮前駅(2番出口)より徒歩約8分

■開会挨拶 海渡雄一さん(「秘密保護法」廃止へ!実行委員会 弁護士)
■講演 保阪 正康さん(ノンフィクション作家・日本近現代史研究者 )
 『秘密保護法制定からの2年を問う 
    秘密法と戦争法がつくる「準戦時体制」とは何か』
■質疑
■特別アピール  藤田早苗さん(エセックス大学人権センターフェロー)
    「国際社会からみた日本の表現の自由」
■発言
 新崎盛吾さん(新聞労連委員長)
 筑紫建彦さん (戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会)
 宮崎俊郎さん(共通番号いらないネット)
 岸田 郁さん(盗聴法廃止ネット)
■閉会挨拶

■主催:「秘密保護法」廃止へ!実行委員会
■連絡先 新聞労連 jnpwu@mxk.mesh.ne.jp/平和フォーラム 03-5289-8222/ 5・3憲法集会実行委員会(憲法会議 03-3261-9007・許すな!憲法改 悪・市民連絡会 03-3221- 4668)/秘密法に反対する学者・研究者連絡 会article21ys@tbp.t-com.ne.jp/秘密法反対ネット(盗聴法に反対する 市民連絡会090-2669-4219・日本国民救援会03-5842-5842)

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# by himituho | 2015-12-03 23:07 | 関連イベントの紹介


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