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2015年 06月 02日

【声明】戦争法制の整備に反対する声明

戦争法制の整備に反対する声明
「秘密法の下で戦争法制の発動の根拠は秘密にされる」


1 はじめに
 政府は、本年5月14日、自衛隊法など安全保障関連の10法案を一括して改定する「平和安全法制整備法」と「国際平和支援法」(以下、併せて「戦争法制」という。)を閣議決定し、国会に提出した。
 しかしながら、そもそも、この戦争法制の前提となる昨年7月1日の閣議決定は、集団的自衛権の行使の禁止、海外での武力行使を禁止するための武力行使一体化論などの枠組み等憲法第9条に関する歴代政府の憲法解釈を一内閣の独断で変更したものであり、憲法第9条の条文解釈の限界を超えるものである。また、憲法第96条の改憲手続によらずに、閣議決定および戦争法制の整備により憲法第9条の実質的な改憲を行うことは、立憲主義の原理に反し、違憲無効である。
 さらに、特定秘密保護法(以下「秘密保護法」という。)の下では、戦争法制における武力行使の要件である自衛の措置の三要件に該当するか、重要影響事態や国際平和共同対処事態を認定して自衛隊を海外に派遣できるのかを判断するために必要な情報が、防衛や外交等に関する特定秘密に指定され、政府が恣意的に作出した情報に基づき戦争参加が決定される危険性がある。

2 戦争法制がもたらす2つの大きな変化
 戦争法制のポイントは、以下の2点である。
(1) 第一に、日本が戦争に参加するときの条件が緩められるということである。
 これまでは、日本が武力を行使して戦争に参加できるのは、「武力攻撃事態」(日本に対する武力攻撃が発生した場合)のみとされてきた。個別的自衛権の行使である。
 しかし、戦争法制により、日本は、「武力攻撃事態」に加え、「存立危機事態」(武力攻撃事態法改正案第2条4号)においても武力を行使して戦争に参加することができるようになる(自衛隊法改正法案第76条2号)。すなわち、日本に対する武力攻撃が発生していなくても、日本と密接な関係にある外国に対する攻撃が行われていれば、日本は集団的自衛権の行使として武力を行使して、戦争に参加することができるようになる。
 さらに、これまでは自衛隊が後方支援活動を行うのは、日本国の周辺地域(周辺事態法)やイラクの特定の地域等(特措法)に限定され、活動場所も「後方地域」や「非戦闘地域」という形で限定されていたのに対し、今回の戦争法制では、「現に戦闘行為を行っている現場ではない場所」であれば、戦場のすぐそばであっても支援活動を行うことになる。
(2) 第二に、日本が平和維持活動等において武器を使用する条件が緩められ、なし崩し的に戦争に参加しやすくなるということである。
 戦争法制には、「存立危機事態」「重要影響事態」「国際平和共同対処事態」以外の「平時」における自衛官の武器使用権限の拡大も含まれている。すなわち、外国軍隊の武器等の防護(自衛隊法改正法案第95条の2)やPKO活動を含む国際平和協力活動での安全確保活動や駆け付け警護活動及び在外邦人保護活動における任務遂行(PKO協力法改正案26条)のために自衛隊は武器を使用することができるようになる。
 シリアを始めるとする現在の中東情勢をみれば分かるように、現代の紛争は、正式な宣戦布告がなされて開始されるものではない。グレーゾーン事態などという概念を作出し、自衛隊の「平時」の武器使用権限を拡大することは、自衛隊が現地において、なし崩し的に紛争や戦争に参加することになる危険性を高めることにほかならない。
 安倍首相は、今回の法案についてあらゆる事態に「切れ目」のない対応を可能とする法整備を行うことが必要だと説明している。これは、「平時」とされる区域から戦争に参加し、暴力の応酬を通じて、武力行使へと「切れ目」なく戦闘活動をエスカレートできるようにするという意味にほかならない。

3 戦争は秘密から始まる
 秘密保護法については、従来から戦争法制の準備のための立法であることが指摘されてきた。
 近現代史を紐解けば、戦争が政府のウソから引き起こされてきたことは明らかである。満州事変(柳条湖事件)もベトナム戦争(トンキン湾事件)もイラク戦争(大量破壊兵器疑惑事件)も、すべて政府のウソから戦争が始められた。
 今回の戦争法制についても、「存立危機事態」や「重要影響事態」、「国際平和共同対処事態」の認定において、国会が自衛隊による海外活動の承認審議をしたり、市民がその根拠となる事実の存否を判断するために必要な情報が、秘密保護法により特定秘密に指定される危険性がある。安倍首相も、2014年10月の国会答弁において、武力行使の根拠となる情報が特定秘密となる可能性を認めているところである。これらの情報が市民にも国会にも公開されないまま、政府が恣意的に作出した情報に基づき、戦争参加が決定される危険性が高いのである。
 秘密保護法は、指定の範囲・要件が曖昧で、運用を監視する第三者機関の独立性・実効性が保たれておらず、内部通報制度にも実効性がないため、政府による濫用を防ぐことができないことは、これまで秘密保護法対策弁護団が指摘してきたとおりである。秘密保護法の下では、政府が防衛や外交等に関する情報を特定秘密に指定することで、戦争法制における要件に該当する事実があるか否かを判断するために必要な情報を秘匿することは容易である。また、これらの特定秘密を取り扱う官僚等が、政府が恣意的に作出した情報がウソであると気付いて市民に真実を伝えようとすると、秘密漏えい罪として最高で懲役10年という厳罰を覚悟しなければならず、強い萎縮効果が生じる。
 戦争法制が、秘密保護法の施行から僅か約半年後に提出されたということからしても、戦争法制と特定秘密保護法との強い関連性が推定されるところであり、戦争法制が施行され、秘密保護法が悪用されれば、日本が戦争へ突入することを止めることは誰にもできなくなってしまう。

4 日本人人質事件に関する検証委員会のレポートにみる秘密保護法の悪影響
 「イスラム国」(IS)による日本人人質事件に関して「邦人殺害テロ事件の対応に関する検証委員会」は5月21日、政府の対応について「救出の可能性を損ねるような誤りはなかった」とする検証報告書を公表した 。犯行グループの要求に政府は直接対応せず、被害者家族が専門家に相談して交渉したことが明らかにされた。しかし次のような重要な事実関係が公開されておらず、政府の対応に対する独立した検証はできていないと評価せざるを得ない。このような不十分な報告となった原因は多くの情報が特定秘密に指定されているためと、特定秘密を口実に特定秘密ですらない情報も隠しているためである。
 まず「特定秘密」に該当する情報が有識者メンバーに開示されたかどうかも確認できない。この検証がどのような情報に基づいてなされたのかもわからないのである。
 政府が人質拘束の可能性を認識した12月3日から、殺害予告動画が公表された1月20日までの対応の適否が焦点であった。人質となった後藤健二さんの妻は、この段階で犯人側とメールのやりとりをしていた。報告書は政府の関与について「必要な説明・助言を行うなど支援を行った」としたがその詳細は明らかになっていない。このような状況で、安倍首相・日本政府は中東に訪問する計画を変更することなく、1月18日にはエジプトにおいて、「地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します。」と演説した 。
 その二日後である1月20日に後藤さんについての身代金要求額が、それまでの20億円程度から、安倍首相の演説後に2億ドル(日本政府の支援約束額と同額)に上がった原因について報告においては何ら検討がなされていない。
 さらに、この「スピーチ案を検討した時点で、政府としては、邦人が確かに拘束されていると認識し、犯行主体を特定するには至っていなかったが、様々な可能性がある中でISILである可能性も排除されないとの認識であった。同時に、中東地域のみならず国際社会全体にとっての脅威となっているISILをはじめ、テロとの闘いを進めている中東諸国に対して、連帯を示し、日本ができる人道支援を表明することが重要だとの考えに基づいて、スピーチの案文については、様々な観点から検討した。」と説明している(検証報告書17頁)。
 報告は、首相がこの時期に中東訪問を判断したことに問題はない、首相のカイロでの演説には問題はないとしているが、ISに身柄拘束されている可能性の高い邦人がいるところに行くことでISを刺激する危険はないのかという観点からの事前の検討がどのようになされたのかどうか明らかになっていない。また、邦人がISに身柄拘束されているときに、人道支援とはいえISと闘う諸国に援助すると演説することが本当に必要だったのか、そのような演説がISに身柄拘束されている者の身の安全にどのような影響をもたらすか、どのような検討の結果このような演説がされたのか、実際にどのような影響があったのかが全く検討されていない。
 このように、特定秘密保護法は既に重要な国の政策の適否を判断するうえで、特定秘密であるとする理由で詳細な説明をしない、特定秘密ではない情報まで、秘密にしてしまうという点で大きな障害となっていると評価できる。

5 戦争法制に反対する
 戦争法制は、本来1つ1つ時間をかけて吟味されるべき11の法案(①武力攻撃事態法改正案、②周辺事態法改正案、③PKO協力法改正案、④自衛隊法改正案、⑤船舶検査法改正案、⑥米軍行動円滑化法改正案、⑦海上輸送規制法改正案、⑧捕虜取り扱い法改正案、⑨特定公共施設利用法改正案、⑩NSC設置法改正案、⑪国際平和支援法案)を2つにまとめて提出されたことに加えて、「存立危機事態」等の新たな法概念を多数含めて提案されたことによって、大変分かりづらい法律案となっている。
 そのため、多くの市民にとって、これらの法案により実現されようとしている日本の戦争法制を正確に理解し、現実の運用を踏まえた戦争突入の危険性を想像した上で、法案の賛否を判断することは極めて困難である。戦争法制に重大な問題があることは上述したとおりであるが、それに加えて、本国会期間中に戦争法制の採決を行うことは拙速審議であり、民主主義に対する冒涜であると言わざるを得ない。
 秘密保護法は、多数の反対の声に囲まれるなか、2013年12月6日に国会で強行採決された。あの暴挙、不正義を、二度と繰り返してはならない。

6 日本が重要な情報を秘匿したまま新たな戦争を始めることを食い止めなければならない
 私たち秘密保護法対策弁護団は、秘密法に反対する法律家集団として、戦争法制そのものが憲法第9条・平和主義と立憲主義の原理に反するだけでなく、戦争法制と秘密保護法が結びついて悪用されるときには、日本が新たな戦争を重要な情報を秘匿したまま始めるであろうという強い危惧を持つ。
 私たち秘密保護法対策弁護団(構成員約400名)は、戦争法制に反対し、政府および国会に対して即刻廃案とするよう強く要求する。

 2015年6月1日
秘密保護法対策弁護団      
共同代表  海 渡  雄 一
同     中 谷  雄 二
同     南    典 男





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by himituho | 2015-06-02 22:25 | 弁護団の声明など


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