2021年 12月 03日
【声明】情報監視審査会と独立公文書管理監の年次報告書に関する意見 |
情報監視審査会と独立公文書管理監の年次報告書に関する意見
2021年12月2日
秘密保護法対策弁護団
はじめに
衆議院及び参議院の情報監視審査会は、毎年、特定秘密の指定・解除及び適性評価の運用状況に関し、報告書を議長に提出することとされている。衆議院情報監視審査会は2021年5月11日に「令和2年年次報告書」を、参議院情報監視審査会は2020年11月に「年次報告書(令和2年11月)」を提出した(以下、それぞれ「衆議院報告書」、「参議院報告書」、合わせて「両院報告書」という。)。
また、独立公文書管理監は、特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理の適正を確保するため、独立公文書管理監及び行政機関の長がとった措置の概要を、毎年1回、内閣総理大臣に報告するとともに公表することとされている。独立公文書管理監は、2021年6月24日、「特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理について独立公文書管理監等がとった措置の概要に関する報告」(以下、「独立公文書管理監報告書」という。)を提出した。
私たち秘密保護法対策弁護団は、秘密保護法について、国民の知る権利を制約し、民主主義的な政治体制を危うくするものであるから、同法の廃止を求めると共に、同法の運用状況を監視し、同法の問題点を法的観点から明らかにし、発信していくことで、秘密保護法廃止運動を市民と共に担うことを目的とする団体である。
そこで、上記の衆議院報告書、参議院報告書、独立公文書管理監報告書を踏まえて、秘密保護法の運用の問題点を指摘し、以下の通り、改善を求める。
第1 改善を求める意見
(情報監視審査会について)
1 情報監視審査会が、特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の状況に関し、特定秘密の提示要求を議決した場合、行政機関の長に当該特定秘密の提示を義務づけるよう秘密保護法を改正すべきである。
2 特定秘密に関して、「サードパーティールール」(第三者に情報を提供する場合、当該情報を提供した外国の情報機関等の了承を事前に得た上で行う原則)に係る特定秘密であることを理由とする情報監視審査会への提示拒否は原則として許されないとした上で、提示を拒否することができる場合について明確な要件や手続が定められるべきである。
3 両院情報監視審査会における調査の実効性を確保するため、衆議院情報監視審査会規程及び参議院情報監視審査会規程に、特定秘密の提示要求のための採決要件を緩和した明文の規定(例えば委員2名以上の賛成)を置くべきである。
4 情報監視審査会に、特定秘密の指定の是非のみならず各行政文書に記載された情報が特定秘密として法律の保護の対象となり得るものかどうかについて実質的に審査する権限を持たせるべきである。
(独立公文書管理監報告書及び情報保全監察室について)
5 独立公文書管理監が情報保全監察室及び公文書監察室両室の長となる体制を改め、特定秘密に関し、独立した公正な立場で検証・監察できる体制の整備を早急に図るべきである。
6 情報保全監察室については、外部からの職員採用や、幹部職員については出身機関に戻らないこととする「ノーリターン・ルール」を検討するなどして情報保全監察室の独立性と専門性を確保すべきである。
(特定秘密記載文書の廃棄問題について)
7 特定秘密が記載された行政文書は、特定秘密の指定の有効期間満了まで確実に保存し、保存期間が経過したときは、廃棄することなく、原則として全て国立公文書館等に移管しなければならないという制度を設けるべきである。
第2 意見の理由
1 衆議院報告書について
(1)衆議院報告書における意見の内容まず、衆議院報告書においては、次のような政府に対する意見が明らかにされている。
ア 各指定行政機関においては、改正運用基準を踏まえ指定管理簿を修正する場合には、指定要件の充足性等の判別が可能となる、より具体的な記述内容となっているかどうかよく精査すること。また、内閣情報調査室は、各行政機関において修正されたものについて、改正運用基準の趣旨が反映されているか改めて精査し、必要と認められる場合には、再修正等適切な対応を求めること。
イ 適合事業者に特定秘密を提供等している行政機関においては、情報漏えいの防止の観点から、引き続き適合事業者における秘密保持の体制の把握や適性評価の実施状況の確実な確認等情報管理には万全を期すこと。
ウ 特定秘密文書の不適切な管理に起因すると思われる誤廃棄事案が複数発生していることから、各行政機関においては、これまで以上に緊張感をもって特定秘密文書の管理に当たること。特に誤廃棄事案が発生した行政機関においては、公文書管理制度などの所定の手続を経ず原本を含む特定秘密文書が廃棄されたことを重く受け止め、改めて現場の業務従事者を含む全ての取扱者に対し廃棄のための手続の周知徹底等の再発防止策を講じること。
エ 各行政機関は、改正運用基準に鑑み、当審査会がその調査に関し特定秘密の指定等の適正性を判断する過程において必要があると認め説明を求めた場合には、特定秘密以外の不開示情報についても積極的に説明する等なお一層真摯に対応すること。特に外務省は、当審査会がこれまでの年次報告書の意見において、当審査会への対応の在り方の改善について重ねて指摘してきた事実を改めて重く受け止め、改正運用基準の趣旨に沿った対応をすること。
(2)意見に具体性がないこと
報告書にも各省庁ごとの審査会と政府のやり取りが記載されている。これらを通覧して判明することは、これらの意見ややりとりには具体性がないと言わざるを得ないことである。
そして、具体性のある意見が出されない背景には、審査会の権限の貧弱さと、審査会であるにもかかわらず特定秘密の内容を把握することができていないことがある。この根本的な状況を改めない限り、審査会が真の意味での審査機関となることはできない。
2 参議院報告書について
(1)海外派遣報告の所見の重要性
参議院報告書では、海外派遣として米国・カナダを視察したことの報告があり、①本審査会の調査において、「リスクベース・アプローチ」(問題が存在する可能性が高い事項を事前調査に基づいて抽出し、集中的に調査する手法) を意識して取り組む必要があること、②年次報告書において調査内容を分かりやすく開示するため、工夫を重ねていく必要がある、③審査会の活動を補佐する事務局職員に関し、審査会の役割に応じた適切な人選や調査能力の向上の取組等の必要な措置が引き続き講じられていくことが重要であるとの所見が記載されている。これらはいずれも重要な指摘である。
そして、海外派遣報告の所見で述べられた「リスクベース・アプローチ」をより意識した調査を実施するため、国民的関心や制度運営上問題が存在する可能性が高い事項を「抽出テーマ」として設定することとし、抽出テーマごとに、テーマ設定の背景、抽出する指定書等を取りまとめた点も、高く評価できる。
(2)特定秘密が提示されないことの問題点
しかし、参議院報告書の対象期間の調査で、参議院情報監視審査会が特定秘密文書の提示を受けられたのは1件のみであった。これは由々しき問題であると言わざるを得ない。
参議院報告書においては、後述する運用基準の見直しの直前である2020年6月5日に行われた説明聴取・質疑において、内閣情報調査室、防衛省防衛政策局、国家安全保障局、外務省欧州局が、それぞれ、ある特定秘密について、情報監視審査会から提示要求があっても提示できないと説明した旨の記載がある。
参議院報告書の「締めくくり的質疑」にも、「法制定当時は、国会から特定秘密の提示要求があれば、極めて例外的な場合を除き、原則として国会の求めに応じなければならないという考え方であった。しかしながら、極めて機微な情報であることを理由に、提示要求があっても提示困難と説明されるケースがある。指定の適否を判断する調査が十分できず、制度の形骸化が危惧される。」という厳しい指摘もされているところである。
3 特定秘密の提示について
(1)運用基準の改正
これまでの両院情報監視審査会年次報告書においても、行政機関が、情報監視審査会による説明要求に対し消極的な態度をとってきたことが、たびたび指摘されてきた。
2020年6月16日に実施された「特定秘密の指定及びその解除 並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準」(以下「運用基準」という。)の見直しにおいて「行政機関の長は、…審査会から必 要な報告又は記録の提出を求められたときは、その充実に資するよう、特定秘密保護法、国会法(昭和22年法律第79号)その他の法令の規定に基づき適切に対応するものとする。」との定めが付記された。
(2)運用基準の改正に至る経過
2020年の運用基準の見直しに先立つ令和元年参議院報告書 (令和元年12月)によれば、情報監視審査会の説明聴取・質疑において、 国家安全保障会議や防衛省は、一部の特定秘密について、「極めて機微なも のである」「他に類を見ないほど機密性が高い」などとして、仮に情報監視 審査会が特定秘密の提示要求を議決した場合でも、提示できないとの見解を 示していた。その一方で、これらの特定秘密のうち、国家安全保障会議が指 定する特定秘密(特定秘密文書である国家安全保障会議の議事の記録)は、情報公開・個人情報保護審査会における不服申立ての審理では提示されていたことが、令和元年参議院報告書において判明している。その後、参議院情報監視審査会において提示要求の動議が提出されたが、否決された。また、先述の通り、令和2年の参議院報告書においても、運用基準の見直しの直前である 2020年6月5日に行われた説明聴取・質疑において、内閣情報調査室、 防衛省防衛政策局、国家安全保障局、外務省欧州局が、それぞれ、ある特定秘密について、情報監視審査会から提示要求があっても提示できないと説明した。
(3)開示を行政機関の裁量にゆだねてはならない
特定秘密の国会に対する提供について定める秘密保護法第10条第1項は、 その提供の要件として、行政機関の長が「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めたとき」を挙げており、行政機関の長の裁量により、特定秘密の提示要求を拒否できることになっている。
これに対し、情報公開・個人情報保護審査会設置法第9条第2項によれば、 同審査会が諮問庁に対し行政文書の提示を求めたとき、諮問庁がこれを拒むことは認められていない。
(4)審査会が特定秘密の内容を把握することがすべての機能の出発点である
両院情報監視審査会は、行政における特定秘密の保護に関する制度の運用を常時監視するため、特定秘密の指定及び解除並びに適性評価の実施の状況について調査及び議員等からの特定秘密の提供の要求に係る行政機関の長の判断の適否等を調査する権限を有する機関であり、保護措置が講じられた国会としての性格を有する機関である。そして、国会が国権の最高機関であるところ、国会による行政及び秘密保護法の運用について民主的統制を実効あるものとすべく、保護措置が講じられた国会としての性格を有する情報監視審査会が特定秘密の提示を求めた場合には、少なくとも情報監視審査会には提示されるべきである。特定秘密の提示要求が拒否されれば、その提示要求を拒否した行政機関の長の判断が正当だったか検証することができないこととなってしまう。
情報監視審査会が、特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の状況に関し、特定秘密の提示要求を議決した場合、行政機関の長に当該特定秘密の提示を義務づけるよう秘密保護法を改正すべきである。
(5)サードパーティールールに関する制度の明確化も必要
また、参議院報告書には、いわゆる「サードパーティールール」(第三者に情報を提供する場合、当該情報を提供した外国の情報機関等の了承を事前に得た上で行う原則)に関して、平成29年年次報告書における主な指摘事項で、「サードパーティールールが適用される特定秘密について、政府は、「保護措置の講じられた国会からその提供の求めがあった場合、情報提供元との信頼関係を維持しつつ、情報提供元の承諾を得られた場合には提供する」旨答弁しているところ、関係行政機関がこの考え方に基づいて適切に取り組むよう引き続き努めること。」とされたのに対し、政府の対応状況として、「既に複数の行政機関がサードパーティールールの適用がある特定秘密を審査会に提示するなど対応を行っている。」との記載がある。しかし、参議院報告書のうち、第2回審査会の中で、委員が「サードパーティールールの適用がある特定秘密の国会への提供が、適切に行われていないと考えている。」とも発言している。
サードパーティールールに関する制度の明確化が必要である。
特定秘密に関して、サードパーティールールに係る特定秘密であることを理由とする情報監視審査会への提示拒否は原則として許されないとした上で、提示を拒否することができる場合について明確な要件や手続が定められるべきである。
(6)特定秘密の提示要求のための採決要件について
また、令和元年の参議院報告書では、一部の委員が特定秘密の提示命令の動議を出したが、否決された旨が記載されている。
しかし、情報監視審査会の審査の充実のためには、特定秘密の提示を受けることが必要不可欠である。よって、一部の委員であっても、提示の必要性を認めたのであれば、その判断は尊重されるべきである。審査会が、政府への忖度などから、提示命令を差し控えているとすれば問題である。
そこで、両院情報監視審査会における調査の実効性を確保するため、衆議院情報監視審査会規程及び参議院情報監視審査会規程に、特定秘密の提出又は提示の要求のための採決要件を緩和した明文の規定(例えば委員2名以上の賛成)を置くべきである。
(7)情報監視審査会に実質的審査権を
両院報告書からは、両院情報監視審査会の各委員が意欲を持って取り組んでいることが推察される。しかし、審査会の権限の貧弱であるがゆえに、その真価を発揮できていないのが現状である。
情報監視審査会に、特定秘密の指定の是非のみならず、各行政文書に記載された情報が特定秘密として法律の保護の対象となり得るものかどうかについて実質的に審査する権限を持たせるべきである。
4 独立公文書管理監について
(1)独立公文書管理監報告書について
独立公文書管理監報告書には、下記のとおり、令和3年3月26日、特定秘密の記録とその表示について2件、特定行政文書ファイル等の保存について1件の是正の求めを行ったことが記載されている。
海上保安庁の1部署において、特定秘密でない情報のみが記録されている文書(1件)について、特定秘密表示をしているものと認め、海上保安庁長官に対し、当該表示を全て抹消するよう、是正の求めを行った。
防衛省の1部署において、特定秘密表示を特定秘密である情報が記録されている頁にしている特定秘密文書(1件)について、特定秘密である情報を記録する部分を容易に区分することができるにもかかわらず、特定秘密である情報が記録されていながら、同表示をしていない頁があるものと認め、防衛大臣に対し、当該表示をするよう、是正の求めを行った。
内閣府において、特定秘密が取り扱われる場所への携帯型情報通信・記録機器持込みを禁止した場合に、その場所に機器持込みをしてはならない旨の掲示を行うとともに、機器持込みの禁止に必要な措置を講ずるものとされているにもかかわらず、実地調査の際、機器持込みを禁止した場所に、その旨の掲示は行われていたものの、機器の携帯の有無を確認するなど、機器持込みの禁止に必要な措置が講じられていなかったことから、内閣総理大臣に対し、機器持込みの禁止に必要な措置を講じるよう、是正の求めを行った。
いずれも、検証・監査を通じて、是正を要する点を発見し、是正の求めを行ったという点は評価できる。しかし、これまでの独立公文書管理監報告書と同様、是正の求めをする対象は形式的な問題にとどまり、さらに踏み込んで、「特定秘密の指定が、特定秘密保護法等に従って適正に行われているか」を実質的に検証するには至っていない。
(2)独立公文書管理監の体制整備の必要性
独立公文書管理監は、政府部内の組織として、特定秘密の指定・解除及び特定行政文書ファイル等の管理についての検証・監察を行っており、その役割は重要である。
そして、令和元年参議院報告書は、検証・監察に係る新たな手法の導入及び独立公文書管理監の分析能力向上を図るための取組などを積極的に行い、検証・監察の実効性を高めるとともに、必要に応じて人的資源の拡充を図るなど、検証・監察の体制を整備することを求めていた。
独立公文書管理監が情報保全監察室及び公文書監察室両室の長となる体制を改め、特定秘密に関し、独立した公正な立場で検証・監察できる体制の整備を早急に図るべきである。
(3)ノーリターン・ルールについて
独立公文書管理監が内閣府に置かれ、具体的な検証・監察については運用基準において定められていることから、令和元年衆議院報告書には、「制度的には、実際はいわば『身内』による点検のため、チェックが甘くなる可能性も指摘されている。」とも記載されている。
情報保全監察室については、外部からの職員採用や、幹部職員については出身機関に戻らないこととする「ノーリターン・ルール」を検討するなどして情報保全監察室の独立性と専門性を確保すべきである。
5 特定秘密記載文書の廃棄問題について
(1)指定解除前の文書廃棄の問題点
保存期間1年未満の特定秘密文書は、既に大量に廃棄されていることが判明している。衆議院情報監視審査会の平成29年年次報告書には、「内閣情報調査室より、平成28年中に廃棄された保存期間が1年未満の特定秘密文書の総計は44万4,877 件(複製物を含む)との答弁があった。」との記載がある 。平成28 年末時点での特定秘密文書件数は32 万6,183 件(複製物を含まない)であったことと対比すると、廃棄数が非常に多いことが分かる。
参議院報告書には、防衛省(防衛政策局)の説明として、「平成2 9 年3 月に指定を解除した情報(防-76、77、87、88)は過去の計画であり、特定秘密文書が既に存在しておらず、時の経過により関係者の記憶から本情報を正確に再現することが困難で、その漏えいが我が国の安全保障に著しい影響を与える恐れがあるとまでは言えないと判断したことから、指定を解除したものである。」との記載がある。これは、秘密指定の解除前に特定秘密文書を廃棄していたということではないかと考えられる。
(2)「歴史公文書等」以外の文書の廃棄について
また、秘密指定の有効期間が30年以下の特定秘密について、秘密指定の有効期間を満了した時は、当該秘密指定をした行政機関の長が、「歴史公文書等」に該当しないと判断すれば、内閣総理大臣の同意を得て、廃棄することとなっている。「歴史公文書等」に該当するか否かの判断自体を行政機関が行うことから、「歴史公文書等」の該当性の判断が恣意的になされ、安易に「歴史公文書等」に該当しないと判断されかねない。
そうすると、当該文書が「歴史公文書等」に該当したか否かを客観的に事後的に検証することができず、特定秘密の指定から破棄まで、行政機関による恣意的運用を認めることになるおそれがある。これは行政機関による情報統制につながり、国民の知る権利を侵害する。
(3)小括
以上により、特定秘密が記載された行政文書は、特定秘密の指定の有効期間満了まで確実に保存し、保存期間が経過したときは、廃棄することなく、原則として全て国立公文書館等に移管しなければならないという制度を設けるべきである。
以上
by himituho
| 2021-12-03 17:48
| 弁護団の声明など


