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2025年 08月 20日

【声明】スパイ防止法の導入に反対する声明

スパイ防止法の導入に反対する声明
2025年8月19日
秘密保護法対策弁護団

第1 スパイ防止法の導入に向けた自民党内および一部野党の動きについて
 自由民主党では、かつて経済安保担当相として「経済安保法」の制定を進めた高市早苗氏が会長を務める自民党「治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会」が、本年5月28日、「『治安力』の強化に関する提言」を取りまとめ、石破茂首相に参院選公約にこの提言を盛り込むよう求めた。この提言では、わが国の治安力を強化するための具体的な方策を公的部門と民間部門に分けて記され、公的部門では、海外からの脅威に対する方策、偽情報等の収集・分析・集約や国民のリテラシー向上への取り組みに必要な体制・予算の確保のほか、わが国の重要情報を守る観点から、「諸外国と同水準のスパイ防止法の導入に向けた検討を推進すべき」としている。自民党の石破総裁は、この提言を受け、「インテリジェンスの強化も問題意識を持って検討していく」等と述べたが、本年の自民党の参院選挙公約には、スパイ防止法の記載はなかった。
 他方、国民民主党の参院選公約には、G7諸国と同等レベルの「スパイ防止法」を制定することが明記されているほか、日本維新の会の参院選公約にも、米国の CIA のような「インテリジェンス」機関を創設するとともに、諸外国並のスパイ防止法を制定し情報安全保障を強化することが書かれている。
 参政党も、日本版「スパイ防止法」等の制定で、経済安全保障などの観点から外国勢による日本に対する侵略的な行為や機微情報の盗取などを機動的に防止・制圧する仕組みを構築する旨を記載している。さらに、参政党の神谷宗幣代表は、本年7月14日、松山市であった参院選の街頭演説で、公務員を対象に「極端な思想の人たちは辞めてもらわないといけない。これを洗い出すのがスパイ防止法です」と述べた。神谷氏は「極左の考え方を持った人たちが浸透工作で社会の中枢にがっぷり入っていると思う」とも述べたという。

第2 1985年に自民党が国会に提出して廃案となったスパイ防止法案
1 法案の提出から廃案への経緯
 上記のようにスパイ防止法の導入を掲げる政党がいるが、このスパイ防止法と呼ばれる法案の内容は明らかにされていない。
 1985年に中曽根政権時、国会に議員提案され、同年に廃案となった「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」(以下「国家秘密スパイ防止法案」という。)が念頭に置かれているとみられる。この法律の制定運動は、80年代当時の統一教会・勝共連合が強力に推進したものであったことを忘れてはならない。国際勝共連合は、1987年1月1日付の思想新聞で国家秘密スパイ防止法案は「戦後初めて全国民に国家に対する忠誠心を問う法律」であると明言していた。
 これに対して、日弁連、社会党、共産党などの野党、総評系の労働組合運動、市民の広範な反対の声によって、法案を廃案に追い込むことに成功した。
2 法案の内容
 国家秘密スパイ防止法案は、全14条及び附則により構成されていた。
 外交・防衛上の国家機密事項に対する公務員の守秘義務を定め、これを第三者に漏洩する行為の防止を目的とする。また、禁止ないし罰則の対象とされる行為は既遂行為だけでなく未遂行為や機密事項の探知・収集といった予備行為や過失(機密事項に関する書類等の紛失など)による漏洩も含まれる。そして、第4条は、外国通報目的の探知収集漏洩行為について死刑又は無期懲役に処するとしていた。

第3 どんな内容の法案が提出される可能性があるのか
1 外国通報目的の秘密漏洩には死刑または無期懲役
 スパイ防止法として、どんな法案が準備されているかは判然としないが、2013年に制定された特定秘密保護法は、上記の国家秘密スパイ防止法案の大半の部分を実現したものである。 違いを見つけるとすれば、特定秘密保護法の罰則は最高刑期10年に対して、国家秘密スパイ防止法案は、「外国通報」の場合は、罰則が死刑と無期懲役で著しく厳罰化されていることである。特定秘密保護法に含まれない規定は、まず、この規定であると想定される。
2 適性評価(セキュリティ・クリアランス)によるレッド・パージ
 また、参政党の神谷氏の上記発言から、公務員や民間企業社員に対する適性評価(セキュリティ・クリアランス)の審査において、思想信条を調査し、左派の政治信条を持つことが判明すれば排除するような制度も想定されている可能性がある。いわゆるレッド・パージである。
 現状で、特定秘密保護法などで公務員や民間企業社員に対して実施されている適性評価(セキュリティ・クリアランス)においては、政治的な思想信条の調査などはしないし、できないものとされている。この歯止めを取り去り、思想信条の自由を侵害する制度が企図されている危険がある。
3 中央情報機関の設立
 注目されるのは、情報機関の設立が、複数の政党から打ち出されていることである。内閣情報局を、関連する機関を統合して設立することが、スパイ防止対策の決め手として打ち出される可能性がある。

第4 スパイ防止法は秘密保護法反対運動の成果をなきものにし、秘密保護法を更に悪化させるものである
 私たち秘密保護法対策弁護団は、特定秘密保護法の制定に反対して結成した。特定秘密保護法には根本的な欠陥がある。何が秘密に指定されるかが限定されず、政府の違法行為を秘密に指定してはならないことも明記されていない。公務員だけでなく、ジャーナリストや市民も、独立教唆・共謀・煽動の段階から処罰される。最高刑は懲役10年の厳罰である。政府の違法行為を暴いた内部告発者、ジャーナリスト、市民活動家を守る仕組みが含まれていない。政府から独立した「第三者機関」も存在しない。ツワネ原則(国家安全保障と情報への権利に関する国際原則)にことごとく反しているばかりでなく、ふたりの国連人権理事会の特別報告者とピレイ国連人権高等弁務官からも重大な懸念が表明された。日弁連は、2014年9月19日付け「特定秘密保護法の廃止を求める意見書」を発表し、立憲野党は法の廃止を求める法案を国会に提案した。
 反対運動の盛り上がりを受けて、法律成立後も市民は法の運用基準に対するパブリックコメントに取り組み、運用基準には、政府の違法行為を秘密指定してはならないこと、適性評価においては、政治的な信条や労働組合における活動歴などを調査してはならないこと等を盛り込むことに成功した。
 神谷氏の述べている公務員の思想調査などは、この運用基準に明確に違反している。スパイ防止法は、秘密保護法反対運動の成果をなきものにし、秘密保護法を更に悪化させるものであることは明らかである。

第5 スパイ防止法の制定を必要とする立法事実はない
1 いま以上の外国通報目的の厳罰化の必要性はない
 秘密漏洩の厳罰化は、すでに上記のように大きな問題を内包する特定秘密保護法により、厳罰化が実現しており、これ以上の厳罰化の必要性はない。
 特定秘密保護法の初の適用事例は、海上自衛隊1等海佐事件が退職していた元海将に対して最新の安全保障情勢に関するブリーフィング説明を行った際、特定秘密を洩らしたとされた事例(海上自衛隊一等海佐事件)であるが、書類送検されたものの、後に不起訴となった。このほか、部隊指揮官が訓練において指示伝達を行う際に、特定秘密の情報を知るべき立場にない隊員に特定秘密の情報を漏えいしたとされる陸上自衛隊事件や、海上自衛隊の護衛艦「いなづま」の当時の艦長が、特定秘密を取り扱う資格のない隊員1名について特定秘密取扱職員に指名し、戦闘指揮所において特定秘密を取り扱わせていたという護衛艦「いなづま」事件、その追加調査により海上自衛隊の艦艇38隻で船舶の動向に関する情報などを資格のない隊員でも見ることができる状態にしていたという自衛隊大量処分事件が公表されている。いずれも外国通報目的やスパイの問題ではなく、自衛隊における特定秘密の取扱いの運用が問題とされた事例である。
2 秘密保護の強化は、国際紛争の外交努力による解決を困難にする
 秘密保護の強化は、日中間など、国際緊張をはらむ外国と日本の間の平和構築についての議論そのものをタブー化し、戦争の危機を深めることになる。
 海上自衛隊一等海佐事件では、何が特定秘密であったのか、説明を受けた元海将も分からなかったという。外交関係や国際情勢に関する論議にまで、秘密のベールがかぶせられれば、相手国との緊張緩和のために、何をすればよいのかについてのパブリックな討論すら難しくなってしまうだろう。
3 秘密警察活動によって冤罪が生まれ、弁護活動にも大きな障壁となる
 経済安保法の制定のために、実例をでっち上げるために大川原化工機事件のえん罪が発生し、長期拘禁と無実の相嶋氏の獄死という悲惨な結果につながったことの教訓を忘れてはならない。

第6 まとめ
 以上の通り、スパイ防止法と銘打っているが、その内実は、特定秘密保護法の更なる改悪となる可能性が高いものであり、その導入には強く反対する。

# by himituho | 2025-08-20 11:26 | 弁護団の声明など
2025年 05月 17日

【声明】 「能動的サイバー防御法」=ネット監視・サイバー先制攻撃法の成立に強く抗議する

「能動的サイバー防御法」=ネット監視・サイバー先制攻撃法の成立に強く抗議する

2025年5月16日
経済安保法に異議ありキャンペーン
秘密保護法対策弁護団

 本日5月16日、参議院本会議で、「能動的サイバー防御法」=ネット監視・サイバー先制攻撃法が可決成立した。この法律の問題点はネット監視の深化とサイバー攻撃の権限を政府に与えることの二点である。

情報収集から除かれる国内通信はわずか6.8パーセント
 ネット監視法(A法)は、サイバー攻撃防止のために事業者と協定を締結するか、あるいは同意なくして通信情報を取得するための法律である。政府は、同意なくして収集対象となるのは海外通信に限られ、国内で完結する通信は対象としていないとする。
 しかし、基幹インフラ事業者や一般の通信事業者との協定に基づく通信情報の取得には、何の限定もない。また、法案の定義による国内通信はわずか6.8パーセントであることが、石川大我議員(立憲)の質問に対する答弁で明らかにされた。国内の当事者間の通信も、そのほとんどが海外のサーバーを経由するので、政府の説明では、海外のサーバーを経由した情報は、国内通信と定義されず、収集の対象とされるためだ。情報収集は必要最低限度にとどめるという原則規定も法案にはない。政府の説明は極めてミスリーディングなものだったといわざるを得ない。

集められた情報が、捜査目的に流用されたとしても、それを実効性を持って歯止めをかける手段がない
 この点について、次の衆議院内閣委員会(25.4.2)での塩川鉄也議員(共産)に対する警察庁答弁が「刑事事件の証拠としてこれを利用することが必要となる場面は極めて限定的、例外的」としつつ、「仮に捜査に利用する場合には、令状を取得して選別後通信情報を差し押さえるなど」適切に対応するとしている。別途令状を請求することも、立派な捜査の端緒としての利用のはずである。このような警察による捜査を防ぐ方法が全く示されていないことが大きな危惧として残る。

不正な方法で内容を閲覧することは可能である
 4月2日の審議で緒方林太郎議員(無所属・有志の会)の質問に対して、政府参考人の小柳氏は、「政府の職員が、取得通信情報のうちコミュニケーションの本質的内容など、法律案の要件を満たす機械的情報以外の情報を不正な方法を用いるなどして閲覧すること自体は技術的には不可能ではないというふうには思います」と答弁した。しかし、それに続けて、機械的選別が終了後直ちに消去するよう法的な義務として条文に明確に定められているとも説明した。この規定の違反があった場合、委員会が検査是正するとしている。しかし、どのような方法で検査するのかは明らかにされていない。

警察組織の自浄能力には期待できない
 昨年9月に名古屋高裁で原告の勝訴が言い渡された「岐阜県大垣警察市民監視事件」の判決は、「私人が発信した自己の情報を公権力が広く収集し、分析しているとすると、私人が自ら情報発信すること自体を躊躇する可能性があるし、情報発信する内容についても、公権力がこれを収集していることを前提とした内容にしてしまう可能性があるのであって、いずれにせよ、私人が自らの行動に対する心理的抑制が働き、少なくとも自由な情報発信に対する事実上の制約が生じることは明らかであって、憲法で保障された表現の自由(21条1項)や内心の自由(19条)に対する間接的な制約になるのである」「公権力が、ある者の個人情報を収集しているということは、その者と接触する者の個人情報や、その者が所属する団体ないしグループ等の情報も公権力によって収集されることになるから、そのような者との交友を避けたり、そのような者がグループ等に入ることを嫌ったりすることが考えられるのであって、現実的な社会生活への影響を生じさせるものといえる」としている。
 さらに、判決は警察組織には自浄作用が欠如していると断じている。このような組織に、広範に収集された情報の分析、海外における無害化措置の権限を与えることの適否が、あらためて問われるべきである。

無害化措置の立法事実の説明が不足している
 B法、無害化措置に関する整備法においては、サイバー攻撃による重大な危害を防止するため、警察官又は自衛官によって「無害化措置」と名付けられた先制的なサイバー攻撃の根拠規定として、警察官職務執行法と自衛隊法などを整備した。
 サイバー攻撃の対処には、サーバー管理者に機能停止(テイクダウン)を依頼することや、攻撃者を公表し非難するなど、他にも手段がある。これらの措置が功を奏しないときに、はじめて、政府がこのような措置を講ずるということとなると思われるが、政府がこれまで、このような措置をどれだけ講じたのか、その結果はどのようなものだったか、説明がなされていない。
 政府は、既存の国際法がサイバー行動にも適用されるということを認めたが、このことを法案に明記することは拒んだ。

国際法の遵守は付帯決議には明記された
 参議院における付帯決議は、「外国に所在する攻撃サーバー等へのアクセス・無害化措置が国際法上許容される範囲内で行われることを担保する観点から、緊急状態を援用する際には国家責任条文第二十五条の要件を満たして同措置を行うこと。国際法上の評価を行う外務大臣は、同措置が、時間的に切迫していること、他に合理的手段を採り得ないこと、及び他国の不可欠の利益を深刻に損なうものではないことを満たしているかについて検討し、同措置の実施主体との協議に反映させること」と規定された。
 この法律の実施においては、国際法を誠実に遵守するという原則を確認したものであり、この付帯決議を政府機関に遵守させることが重要な課題である。

タリン・マニュアル、国連国家責任条文を遵守するべきことも付帯決議で確認された
 そして、整備法は、警察が対処する場合には、法案の定める「サイバー攻撃又はその疑いがある通信等を認めた場合であって、そのまま放置すれば、人の生命、身体又は人の生命、身体又は財産に対する重大な危害が発生するおそれがあるため緊急の必要があるとき」を要件としている(B法案2条による警職法6条の2の新設)。
 また、自衛隊が対処するべき場合の加重要件としては、「本邦外にある者による特に高度に組織的かつ計画的な行為と認められるものが行われた場合において、自衛隊が対処を行う特別の必要があると認めるとき」を求めている(B法案4条による自衛隊法81条の3などの新設)。
 米欧諸国が認め、日本政府も尊重するとしているサイバー攻撃に関する国際規範であるタリンマニュアルでは、最も重要な規則26で、「国家は、根本的な利益に対する重大で差し迫った危険を示す行為への反応として、そうすることが当該利益を守る唯一の手段である場合には、緊急避難を理由として行動することができる」としている。規則73は、このような行動には「侵害の切迫性」も求めている。
 この法律の定めている攻撃の要件は先に紹介したタリン・マニュアルよりはるかに広汎であり、個人や企業の財産的利益を守るために日本の警察や自衛隊が海外のサーバーへの攻撃ができるように読める。良識の府である参議院でのこの審議を通じて、せめてタリンマニュアルの規定する「根本的な利益に対する重大で差し迫った危険を示す行為への反応」「侵害の切迫性」は、無害化措置の要件として、書き込むように法案修正をするべきであった。法案の修正は実現しなかったが、このような付帯決議が定められたことは一定の歯止めとなりうる。

サイバー通信情報監理委員会はできる限り詳細かつ速やかな報告を行うべき
 衆院の最終盤で、立憲民主・自民間で合意した法案の修正案でも、明らかにされるのは無害化の件数だけであった。この点に関して参議院の付帯決議では、「サイバー通信情報監理委員会は、国会が実効的な監視機能を発揮するため、できる限り詳細かつ速やかに報告を行うこと。また、国会に対する報告については、衆議院における修正の趣旨を踏まえ、法律上明示された事項以外の事項を含めてその内容の拡充に努めるものとし、国会が、当該報告等を契機として、両法に基づく措置に関し説明を求めた際には、民主的統制の重要性を踏まえ、政府全体として誠実に対応し、その説明責任を果たすこと」が決議された。この付帯決議が実効的に運用されることが望まれる。とりわけ、事後報告で、不適切と委員会が考えた場合、委員会は、このような報告の中で、このことを公表できるものとすべきである。

 アメリカを先頭とする戦争の準備のための、新たな段階を画する悪法が、市民の大きな反対の声もない中で、野党の主軸である立憲民主党の賛成を得て成立するということはまことに由々しい問題である。まさに、日本の民主主義と表現の自由、プライバシーの今後に大きな禍根を残すことを危惧する。我々は、成立したこの法律の運用について、市民の立場から今後も厳しく見守り、歯止めをかけていくことを宣言する。

# by himituho | 2025-05-17 17:34 | 弁護団の声明など
2024年 12月 05日

【拡散歓迎】【リーフレット】経済安保・秘密保護法案に反対を! 運用基準パブコメ編

経済安保・秘密保護法について、運用基準案のパブコメの意見募集が実施されています。
秘密保護法対策弁護団で「経済安保・秘密保護法案に反対を!運用基準パブコメ編」のリーフレットを作成し、本法の内容・問題点や、パブコメの方法、ポイントなどをまとめました。
4頁構成となっていますので、A4に両面印刷で2枚組とするか、A3に片面2頁割り付けて両面印刷することで1枚になります。

下記URLのグーグルドライブから、自由にダウンロードして下さい。拡散歓迎です。
https://drive.google.com/file/d/1drhMDRrYms7emzN27HgZLddixjnWHYfc/view?usp=drive_link

# by himituho | 2024-12-05 09:21 | 弁護団の声明など
2024年 10月 28日

【声明】通信の秘密を侵害する能動的サイバー防御制度の導入に反対する声明

通信の秘密を侵害する
能動的サイバー防御制度の導入に反対する声明
2024年10月25日
秘密保護法対策弁護団

1 能動的サイバー防御制度の導入に向けた政府の動き
 世界各地でサイバー攻撃が相次いでいる。政府は2022年末に改定した国家安全保障戦略で、サイバー脅威に対し「対応能力を欧米主要国と同等以上に向上させる」とされている。サイバー空間を平時から監視し、不審な通信やサーバーを検知する、さらに重要インフラなどを狙った重大なサイバー攻撃の危険性が高い場合は、未然に攻撃者のサーバーに侵入して、マルウエアを送り込んで無害化する「能動的サイバー防御(ACD)」制度を導入するとしている。
 2024年6月7日から、このようなサイバー攻撃を未然に防ぐための「能動的サイバー防御(ACD)」制度の導入に向けた有識者会議会合が開催されている。政府は、総選挙後の秋の臨時国会にも法案を提出するよう、準備を進めていると報じられている。
 しかし、サイバー攻撃に対する対策の基本は、侵入を防ぐためのシステムの防御であり、攻撃によって食い止めるという方法は、その効果も不確実であり、副作用も大きい。このような制度の導入が、効果をあげられるかどうか、どんな弊害が考えられるかが、まず十分検討される必要がある。

2 有識者会議に示された論点
 政府は有識者会議に、主な論点として、①民間企業との情報共有や政府の司令塔機能強化を含む「官民連携の強化」、②通信状況を監視し、悪用されているサーバーを検知する「通信情報の活用」、③重大な被害を未然に防ぐため、攻撃サーバーを特定し、機能停止に追い込む「無害化措置」の3点を想定するよう提示して、議論を始めている。
 本年8月7日には、有識者会議の「議論の整理」がまとめられ、公表された。

3 危惧される問題点
(1)情報提供を強いられる民間事業者
 官民連携の強化について、企業がサイバー攻撃を受けたことについて国に対して報告義務を課されることが想定されている。サイバー空間でどんなやりとりがなされているか、通信事業者が、政府から情報提供を強いられる懸念も否定できない。
 報道では、国内間の通信などは監視の対象外になるとの報道もあるが、有識者会議での議論では、海外との通信を中心として情報収集するとされているのみで、国内間の通信が対象外とするとは明言されていない。
(2)あいまいな情報収集の要件
 通信情報の活用については、不審なサーバーの検知や攻撃者を特定するための通信記録の監視や解析は、憲法21条が保障する通信の秘密に抵触し、プライバシーの侵害につながる懸念がある。
 内閣法制局は2月の衆院予算委員会で「通信の秘密についても公共の福祉の観点から必要やむを得ない限度において一定の制約に服すべき場合がある」と答弁し、公共の福祉の観点から必要やむを得ない場合には能動的サイバー防御は容認されるとしている。
 現在検討されている情報収集の条件として、(1)目的の正当性、(2)行為の必然性(その行為以外に手段がないこと)、(3)手段の相当性(必要最小限にとどめること)のほか、(4)内容の限定性(メールの中身や件名といったプライバシーにはかかわらない付随情報=メタデータにとどめる、海外との通信については、特に必要性が高いとされているが、これに限定することは約束されていない)などがあげられているという。
 政府内の検討では、通信内容の提供は原則として受けないとしているが、あくまでスタート時点の話であって、通信傍受法(盗聴法)も当初の運用条件が大きく拡大されている。政府が今後提出する法案において、十分な歯止めになるような条件が定められる保障は極めて疑わしいといわざるを得ない。
(3)サイバー攻撃が主権侵害になる可能性もある
 無害化措置のための攻撃元への侵入は、他人のサーバーへの侵入を禁止する不正アクセス禁止法や刑法に抵触し、攻撃元が海外にある場合は国際法上の外国の主権侵害に当たる可能性がある。サイバー攻撃を行っているサーバー国は、日本とは緊張関係を抱えている国のサーバーが用いられており、サイバー攻撃の防止のための措置が、国際紛争を拡大し、期せずして熱戦にまで発展する危惧まであるといわざるを得ない。

4 独立の監督機関の必要性
 議論の整理では「通信の秘密との関係を考慮しつつ丁寧な検討を行うべき」「主要先進国を参考にしながら現代的なプライバシーの保護や独立機関を組み合わせ、ち密な法制度をつくりあげていく」などとされているが、裁判所による事前審査はすでに放棄されている。
 政府資料には、ドイツの法制度について次のような説明がなされている。
【声明】通信の秘密を侵害する能動的サイバー防御制度の導入に反対する声明_b0326569_14292416.png
 能動的サイバー防御の制度の必要性があるかどうかも根本的に問い返される必要があるが、仮にこのような制度を導入するとしても、プライバシーの侵害を防止し、深刻な国際紛争の発生を回避するためには、明快な承認要件と独立機関による事前審査と継続的な事後監督の制度を備えることは、最低限の要件である。
 英国では、海外からの通信を対象に、安全保障上の必要や重大犯罪の検知を目的にした情報収集が認められている。取得した情報の閲覧や複製などは必要最小限に制限され、独立の監督機関が設置されている。

5 政府による監視社会化の流れに歯止めを
 2013年には日本版「国家安全保障会議」(NSC)が創設された。年末には特定秘密保護法が成立した。2017年には「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が制定された。政府による監視社会化の流れが強まっている。
 しかし、サイバー攻撃が怖い、だから政府に守ってもらおうという短絡的な考え方は極めて危険だ。ネットにおける情報流通が政府に監視されれば、市民の表現の自由は根底から崩される。これまでの有識者会議の動向を見る限り、政府が導入しようとしている能動的サイバー防御制度は、人権侵害の危険性が高いと言わざるを得ず、私たちはこれに反対する。

# by himituho | 2024-10-28 14:29 | 弁護団の声明など
2024年 05月 10日

【声明】経済秘密保護法の成立に強く抗議し、同法と特定秘密保護法の廃止を求める声明

経済秘密保護法の成立に強く抗議し、
同法と特定秘密保護法の廃止を求める声明

経済安保法に異議ありキャンペーン
秘密保護法対策弁護団

1 はじめに
 2月末に国会に提案された経済秘密保護法案=重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案は、私たちの反対の声にもかかわらず、4月8日に衆院本会議で可決され、本日参議院で可決成立した。
 自民党、公明党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などが賛成した。共産党、れいわ新選組、有志の会、社民党、沖縄の風が反対した。
 立憲民主党は、法案を批判する質問・討論を行ったが、修正案が受け容れられたとして法案に賛成した。

2 私たちが、この法案の成立に反対した理由は、次のようにまとめられる。
(1)法案は、特定秘密保護法を改正手続きによらず拡大するものであること
 2013年に制定された秘密保護法は、防衛、外交、テロ、スパイの4分野の秘密指定しか想定しておらず、経済安全保障に関連する情報を特定秘密とすることは全く議論されていない。ところが、法案は、経済安全保障に関連した情報の中には、秘密保護法上の特定秘密に相当する情報があるという前提に立ち、秘密保護法を「改正」しないまま、「秘密保護法の運用基準」の見直し=「閣議決定」だけで、秘密保護法を経済分野に大拡大しようとしている。
 このような立法は、立憲主義の破壊行為であるといわなければならない。
(2) 秘密指定に関する監督措置が不十分であること
 私たちは、特定秘密保護法について、①政府の違法な行為を秘密指定してはならないと法定すること/② 公共の利害にかかわる情報を公表した市民やジャーナリストが刑事責任を問われない保障/③ 適正な秘密指定がなされているかを政府から独立して監督できる制度/④ 秘密指定された情報が期間の経過によって公開される制度を求めてきた。
 しかし、経済秘密保護法案は、このような批判を踏まえた対応を一切行っていない。
 さらに、政府原案では、衆参両院の情報監視審査会による監督や、国会への報告制度すら適用されず、特定秘密保護法の場合と比較しても、監督措置が脆弱であった。
 この点は、立憲民主党の修正案を政府が部分的に受け容れ、国会報告制度が盛り込まれ、情報監視審査会の関与も実現される可能性がある。しかし、この法案修正は、上記に示した法案の根本的な問題点を解消したとは到底評価できない。
(3)法案による秘密指定の範囲は限定されていない
 秘密指定の対象となる情報は民間企業の保有する情報ではなく国の保有する情報だけと政府は説明している。しかし、国費で行われている研究で機微情報と認定されれば秘密指定を行うとしている。経済安全保障法自体が膨大な情報を政府に吸い上げる仕組みである。特定重要物質のサプライチェーンに関する情報、15分野の基幹インフラ企業の施設、設備、プログラム、ITシステムが国に集められたうえで秘密指定される仕組みであり、絞りがかけられているとは到底言えない。加えてAI技術、量子技術、宇宙航空技術、海洋技術開発などの先端技術分野は軍事技術開発として日米共同研究が企図されており、SCの設定が不可欠となっているもので、日米軍事同盟のシームレスな展開が目指されている隠れた狙いがある。
(4)コンフィデンシャル級の秘密指定は欧米では廃止されていて、法案は周回遅れのアナクロだ!
 今回の経済秘密保護法案は重要経済安保関連情報であって漏洩によって著しい支障がある場合は特定秘密として扱い拘禁10年、支障がある場合には拘禁5年という二段階化し、秘密レベルを複層化する制度をとっている。
 ところが、日弁連の斎藤裕前副会長は、コンフィデンシャル級の秘密指定は英仏ではすでに廃止され、アメリカの情報保全監察局(ISOO)による2022年レポートは、大統領あての提言でコンフィデンシャル級の秘密指定の廃止を提言し、カナダにおいても廃止の方向であることを衆議院と参議院の二度の参考人公述のなかで明らかにした。法案の必要性の根幹にかかわる問題点が明らかになったにもかかわらず、問題を掘り下げることなく、法案成立させたことは、著しく不誠実な国会運営であったといわなければならない。
(5)数十万人の民間技術者・大学研究者が徹底的に身辺調査されプライバシーを侵害される
 特定秘密保護法の適性評価は主に公務員が対象であった。経済秘密保護法案では広範な民間人が対象となることが想定される。適性評価は各行政機関が実施するが、その調査は、内閣総理大臣が実施する。官民の技術者・研究者の、犯罪歴、薬物歴、健康、経済状態、飲酒の節度などの個人情報が調べられる。
 衆院で、国民民主党がハニートラップの危険性に関して性的行動が調査事項とされていないのは問題ではないかと高市大臣を追及した。高市大臣は法案12条2項1号の「重要経済基盤毀損活動との関係に関する事項」に該当し、調査できると明確に答弁した。ところが、この点を、参議院の内閣委員会で福島みずほ議員が追及すると、防衛省は、性的行動の調査は行わないが特定有害活動との関係に関する事項の場合は適性評価において考慮されうると答弁した。さらに、性的行動が調べられるなら、政治活動、市民運動、労働組合活動なども調べられるのではないかとの質問に対して、政府委員は、どのような事項について調査しているかも、敵につけ入る隙を与えるので答えられないと答弁した。この点は、2013年に特定秘密保護法が成立した後の運用基準では、「評価対象者の思想、信条及び信教並びに適法な政治活動、市民活動及び労働組合の活動について調査してはならない。」と定められていた。政府委員の頭からは、自らの定めたこの運用基準すら飛んでしまっていることが明らかだ。
 適性評価の実施には、本人の同意を得るとされる。しかし、家族の同意は不要だ。仮に同意しなければ、研究開発の最前線から外され、人事考課・給与査定で不利益を受ける可能性は否定できない。そして、適性評価が適切におこなわれているか、独立の立場で監督する第三者機関は全くない。

3 戦争への道を開く経済秘密保護法の成立に強く抗議する
 悪法を止めるための活動は、仮に制定を止められなくとも、反対運動が盛り上がることによって、政府による法の濫用に対する歯止めとなる。特定秘密保護法違反の罪で起訴されていないのは、特定秘密保護法の成立に多くの市民が反対の声を上げたからである。
 5月5日公表の産経新聞による調査では、主要企業110社から調査回答によると、「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」制度創設に賛成の企業は3割に満たなかった。プライバシー侵害などの懸念が根強いことが示された。5月8日の東京新聞特報面は、福島国際研究教育機構(FREI)と、アメリカの核・原子力研究機関PNNLの協定締結の動きを取り上げ、法案が成立すれば、武器開発・核開発につながる先端技術の研究が秘密のベールで覆われる危険性を指摘した。このように、法案に対する疑問の声が、メディアにおいても、ようやく大きく取り上げられるようになってきた。このような動きを圧殺するかのように、法案の成立を急いだ政府・与党に強く抗議する。
 この法案と経済安保をめぐる国際対立の激化の先には米軍の先兵として日本と中国との本物の戦争の悲劇が待っていることを覚悟しなければならない。そして、この法律の成立に手を貸した連合や立憲民主党には、来るべき戦争の悲劇へ道を開いた責任がある。
 私たちは、成立した経済秘密保護法が真の悪法として猛威を振るうことのないよう、今後予定される運用基準の制定の過程についても、市民の立場で意見を発信しつつ継続して粘り強く監視を続けるだけでなく、政権交代の暁には今回成立した法と特定秘密保護法の両法について、廃止を目指して活動を続けていく。

# by himituho | 2024-05-10 14:05 | 弁護団の声明など


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